Q072 遺留分ってなに?

【Question】

3ヶ月前に父が他界しました。法定相続人は、兄(長男)と姉(長女)、それに私の3人です。

父は生前に遺言書を書いており、そこには「財産全てを長男に相続させる」と書かれていました。また、遺言執行者も長男である兄が指定されていました。

兄は、遺言書どおりに執行するので姉や私には遺産を分配しない、と言っています。姉や私には遺産を相続する権利は無いのでしょうか。

 

 

【Answer】

遺産相続において、法律上の形式をととのえた遺言書がある場合には遺言の内容が優先的に実現されますが、一定の相続人には『遺留分(いりゅうぶん)』という最低限度の保証があります。

あなたとお姉様の遺留分割合はそれぞれ6分の1ですから、お二人が受けた遺産相続がこれよりも少なければ、お兄様に不足分を請求することができます。これを『遺留分減殺請求(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)』と言います。

 

【Reference】

 

遺留分とは

遺言は、財産を残す方の自由な意思で作成することができます。遺言に記載された故人の意思は、最大限に尊重するように配慮しなければなりません。

とはいっても、極端な話、「全財産をA慈善団体に寄付する」という遺言も有効ですので、このような場合にはご遺族の生計が成り立たなくなってしまうことも考えられます。

また、ある人が自分自身の財産を生前に贈与することは、相手がだれであろうと自由にできますから、家族の知らない間に第三者に財産が贈与されているということもありえます。そして贈与者が亡くなれば、遺贈の場合と同様に、残された遺族は路頭に迷ってしまいます。

そこで、遺言がある場合や生前贈与がある場合でも、一定の相続人については、相続財産の一部を最低限確保する権利が認められています。これが『遺留分(いりゅうぶん)』で、遺留分の権利を主張することができる人のことを『遺留分権利者』と言います。

 

相続財産に対し、遺留分はどのくらいあるか

遺留分割合一覧
遺留分割合は、相続人が誰かによって異なります。

1)相続人が直系尊属(たとえば父母)のみが相続人であるときには、相続財産の3分の1。

2)その他の場合には、相続財産の2分の1。

3)兄弟姉妹には遺留分はない

となり、遺留分権利者が複数いる場合には、「遺留分割合×それぞれの相続人の法定相続分」で計算します。

これでは少しわかりにくいので、具体的に、相続財産に対し遺留分がどのくらいになるかを計算したのが左の図です。

被相続人に子も父母もいない場合には、相続人は配偶者と被相続人の兄弟姉妹となります(Q003)が、被相続人が配偶者に全財産を相続させたいと考えるならば、兄弟姉妹には遺留分がありませんから、遺言者が「全財産を配偶者に相続させる」内容の遺言を書くことによって完全に希望をかなえることができます。しかし、配偶者ではなく第三者に全財産を遺贈したいと考えるならば、配偶者には遺留分があります。この場合、配偶者の遺留分は全財産に対して2分の1です(兄弟姉妹は遺留分権利者ではなく、遺留分権利者は配偶者一人だけとなるからです。法定相続分4分の3×2分の1=8分の3であるという勘違いをしてしまいがちなので、ご注意ください)。

 遺留分減殺請求

遺留分を取り戻すには、「遺留分を侵害しているので、それを私に返してください」と手続きを踏んで請求する必要があります。これを『遺留分減殺請求(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)』といいます。

遺留分を請求するかしないかは、その人の自由です。
ですから、円満に相続が解決できたり、遺留分まで配慮した遺言書があったりすれば、そもそも遺留分は気にする必要がありません。

なお、遺留分減殺請求権は、遺留分権利者が、”相続の開始”および”減殺の対象となる遺贈・贈与があったこと”を両方とも知った時から1年間で時効消滅し、請求できなくなります。
また、相続開始から10年を経過すると、問答無用で遺留分減殺請求権は消滅します。

 

具体的な遺留分の求め方や遺留分減殺請求の方法は、Q073Q074で解説します。

 

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2014年3月8日 | カテゴリー :

Q073 遺留分減殺請求の方法とは

【Question】

父が半年前に他界しました。
私の母は20年前に亡くなっており、その後父は再婚していますので、相続人は義理の母(再婚後の妻)と、先妻の子である私の2名です。

遺言公正証書によって全財産を義理の母が相続することになっていると聞きましたが、私にも遺留分があると聞いています。具体的にはどのように遺留分を請求していけばいいでしょうか。

 

【Answer】

お父様が亡くなったのが半年前とのことですから、遺言が有効であるならば、なるべく早く『遺留分減殺請求』の意思表示を行う必要があります。これは配達証明付き内容証明郵便で行うのが一般的です。

その後、相手方の反応を見ながら、場合によっては調停を申し立てたり、訴訟を提起したりして遺産を取り戻します。

 

【Reference】

 

遺留分は、期限内に請求しないと消えてしまう

兄弟姉妹以外の相続人には、遺留分があります。

遺言による遺贈や生前贈与等によって遺留分が侵害された場合でも、そのような遺言や贈与がただちに無効になるわけではありません。遺留分権利者が、遺留分を超えて遺贈や贈与を受けた人(受遺者・受贈者)に対し、遺留分減殺請求をして初めて侵害された遺留分を取り返すことができます。遺留分減殺請求権は、請求しないと発生しない権利なのです(昭和41年7月14日最高裁判決の考え方)。

遺留分減殺請求権は、遺留分権利者が、”相続の開始”、および”減殺の対象となる遺贈・贈与があったこと”を、両方とも知った時から1年間で時効消滅し、請求できなくなります(民法1042条)。

遺留分減殺請求権を行使するには、受遺者・受贈者に対する一方的な通告(意思表示)で良いとされていますが、期限内に通告したことの証拠とするため配達証明付き内容証明郵便にしておきます(後に述べるように、遺留分減殺請求の効力発生日を特定するためでもあります)。

遺留分権利者が数人いる場合には、それぞれが自分自身の遺留分に基づいて個別に減殺請求権を行使できるので、共同で行使する必要はありません

なお、相続開始から10年を経過すると、原則として問答無用で遺留分減殺請求権は消滅します。
(ただし不法行為を原因とする心神喪失の状況にあるのに法定代理人がいなかった事案や、被相続人を殺害した者による作為によって相続人が被害者死亡の事実を知りようがなかった事案等で、特殊な扱いがあります)

 

遺留分減殺請求は、何を対象とし、誰に請求するのか

遺留分減殺請求できる対象は、以下のとおりです。
(1)遺贈
(2)相続開始前1年以内になされた贈与(民法1030条)
(3)特別受益となる贈与(何年前でも。民法1044条が準用する903条)
(4)贈与者・受贈者双方が遺留分権利者に損害を与えることを承知したうえでなされた贈与(何年前でも)
(5)市価よりも非常に安い価格で売買されたようなケースでは、市価との差額を実質的な贈与として扱う(民法1039条)

ということは、遺留分減殺請求の相手方は、これらの受遺者・受贈者(亡くなっていればその相続人)ということになります。

もしも受遺者・受贈者等が目的物を第三者に譲渡している場合には、遺留分権利者は原則として受遺者・遺贈者に対して価額賠償を請求できるだけにとどまります。その第三者に対して「返して下さい」と言うことはできません(民法1040条、ただし例外あり)。

 

遺留分減殺請求の効力

内容証明等で1年以内に遺留分減殺請求権を行使すると、それが相手方に伝わった時点でただちに遺留分を侵害する遺贈・贈与は効力を失い、受遺者・遺贈者は遺贈・贈与の目的物を遺留分権利者に返さなければなりません。遺贈・贈与された財産が不動産のような特定の物であるならば、原則は現物返還です(民法1041条に「返還の義務」とある)。

減殺の対象が複数ある場合、順番が決まっています。これは次のQ074で説明します。

現物返還が原則ですが、受遺者・受贈者は、価額賠償によって、現物の返還義務を免れることができます(民法1041条1項)。遺留分減殺請求権が行使されると、不動産などは共有になってしまうことが大半ですから、価額賠償によって解決されることも少なくありません。

このように遺留分減殺請求の効力は強力なものですが、相手方が返還に応じなければ、その効力を現実のものとするために、相手方に対し遺産分割の調停や審判・訴訟という手段をとることが必要です。

 

 

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2014年3月11日 | カテゴリー :

Q074 遺留分額の算定方法と減殺請求の順序

【Question】

父が他界しました。
私の母は30年前に亡くなっており、その後まもなく父は再婚していますので、相続人は義理の母(再婚後の妻)と、先妻の子である私の2名です。

(1)父の死亡時の財産は、預貯金が3,000万円相当で、すべて義理の母に相続させるという公正証書遺言があります。私には配分がありません。
(2)父が亡くなる半年前に、1,000万円相当の居住用不動産を義理の母に贈与しています。
(3)父の銀行債務が500万円残っているとのことです。

私の遺留分はどうなるのでしょうか。

 

【Answer】

・まず、あなたの遺留分は、遺留分割合2分の1 × 法定相続分割合2分の1 = 4分の1です。

・遺留分の算定基礎となる財産は、遺産3,000万円 + 1年以内の贈与財産1,000万円 - 債務500万円 = 3,500万円となります。

債務は法定相続分どおりに承継されるので、あなたも500万円 × 1/2 =250万円の債務を承継します。あなたが負担することになる債務は、遺留分に加算します。

・あなたが請求できる遺留分額は、3,500万円 × 4分の1 + 250万円 = 1,125万円 となります。

・遺贈と贈与がある場合、先に遺贈を減殺します。
あなたの遺留分1,125万円は配偶者(義母)に遺贈された預貯金で満たされるので、生前贈与された居住用不動産を減殺の対象とすることはできません。

 

 

【Reference】

 

遺留分額の算定方法

具体的な遺留分額は、次のようにして計算していきます(平成8年11月26日最高裁判例、末尾参考判例(1))。

step1 遺留分を求める

詳しくはQ072をごらんください

遺留分の求め方

step2 遺留分算定の基礎となる財産価額を計算する

遺留分算定の基礎となる財産額

③の特別受益として受けた贈与は、原則としてすべて算入します(平成10年3月24日最高裁判決、末尾参考判例(2))。

 

step3 個別の遺留分額を求める

step1で求めた『遺留分』に、step2で算出した『遺留分の基礎となる財産額』をかけ、個別の遺留分額を求めます。

 

step4 遺留分権利者が相続人である場合には、修正を加え、遺留分侵害額を求める

(1)遺留分権利者が特別受益財産を得ている場合は、その価額を控除します。
(2)遺留分権利者が相続によって得た財産がある場合は、その価額を控除します。
(3)遺留分権利者が負担すべき相続債務がある場合は、その額を加算します。

 

遺留分減殺請求の順序

遺留分の減殺は、贈与等の法律行為を失効させる、強力な効果を有しています。
そのため、なるべく時期が新しいものから対象としていくように、順番が決められています。

(1)贈与と遺贈がある場合
まず遺贈が、次いで贈与が減殺されます(民法1033条)。

(2)遺贈が複数ある場合
目的となる財産の価額の割合に応じて減殺します(民法1034条)。
遺留分権利者が減殺の対象となる財産を選ぶことはできません。ただし、遺言者が遺言で特段の意思表示をしていた場合は別です。

(3)贈与が複数ある場合
新しい贈与(相続開始時により近いもの)を先に減殺し、順に古い贈与へさかのぼって減殺します(民法1035条)。

減殺の対象となった受贈者が無資力になっていて、遺留分権利者が事実上損失を受けた場合には、その損失は遺留分権利者がかぶることになり、より古い贈与を減殺することはできません(民法1037条)

なお、相続人に対して遺贈があって、これに対して遺留分減殺請求を行う場合、減殺の対象にすることができるのはその相続人自身の遺留分を超えている遺贈に対してだけです。言い方を変えると、相続人が受けた遺贈の額が遺留分に満たないならば、減殺の対象になりません。遺留分減殺請求によって今度は遺贈を受けた共同相続人の遺留分が侵害される、という事態を回避するためです(平成10年2月26日最高裁判決、末尾参考判例(3))。

 

 

参考判例

(1)平成8年11月26日最高裁判決

「被相続人が相続開始の時に債務を有していた場合の遺留分の額は,民法1029条,1030条,1044条に従って,被相続人が相続開始の時に有していた財産全体の価額にその贈与した財産の価額を加え,その中から債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し,それに同法1028条所定の遺留分の割合を乗じ,複数の遺留分権利者がいる場合は更に遺留分権利者それぞれの法定相続分の割合を乗じ,遺留分権利者がいわゆる特別受益財産を得ているときはその価額を控除して算定すべきものであり,遺留分の侵害額は,このようにして算定した遺留分の額から,遺留分権利者が相続によって得た財産がある場合はその額を控除し,同人が負担すべき相続債務がある場合はその額を加算して算定するものである。」

 

(2)平成10年3月24日最高裁判決

「民法903条1項の定める相続人に対する贈与は,右贈与が相続開始よりも相当以前にされたものであって,その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化をも考慮するとき,減殺請求を認めることが右相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り,同法1030条の定める要件を満たさないものであっても,遺留分減殺の対象となる。」

 

(3)平成10年02月26日最高裁判決

「相続人に対する遺贈が遺留分減殺の対象となる場合においては,右遺贈の目的の価額のうち受遺者の遺留分額を超える部分のみが,民法1034条にいう目的の価額に当たるものというべきである。けだし,右の場合には受遺者も遺留分を有するものであるところ,遺贈の全額が減殺の対象となるものとすると減殺を受けた受遺者の遺留分が侵害されることが起こり得るが,このような結果は遺留分制度の趣旨に反すると考えられるからである。そして,特定の遺産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言による当該遺産の相続が遺留分減殺の対象となる場合においても,以上と同様に解すべきである。」

 

 

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2014年3月14日 | カテゴリー :

Q075 特別受益者がいる場合の、相続分と遺留分の計算例

【Question】

父が亡くなりました。相続人は母、長男、二男、長女、私の5人です。

父の遺産は1,600万円相当で債務はありませんでしたが、遺言公正証書を書いていて、「長男に自宅不動産(1,000万円相当)を相続させる」という内容でした。

さらに、二男に住宅資金として500万円を、長女に結婚資金として300万円を生前贈与していたことが分かりました。

遺産の残りである600万円を話し合って分けなければいけないのですが、母や私は贈与や遺贈を受けていないので、そのぶんは考慮されるのでしょうか。

特別受益と遺留分の計算事例

 

 

【Answer】

まず、お父様の遺言には自宅不動産に関する事項だけが書かれており、すべての財産を網羅したものではないため、残りの遺産については遺産分割協議を行う必要があります。
遺産分割では、遺贈や生前贈与を考慮して遺産を配分するのか、それとも考慮しないで遺産を配分するのか、相続人間の協議で自由に決めるというのがあくまで原則ですQ030Q031

しかし、協議がまとまらなければ家庭裁判所の調停・審判によって結論を出すことになり、この場合には特別受益にあたる遺贈や贈与は当然に考慮されます。

調停・審判を利用せずに相続人間の話し合いを最優先とする場合でも、特別受益にあたる遺贈や贈与がある場合に法律ではどのように扱うのか、知っておいて損は ないかもしれません。

以下のReferenceで、特別受益がある場合に相続分がどのように変更され、遺留分がどのように扱われるのかをごらんいただいたうえで、遺産分割協議にご参加されてはいかがでしょうか。

 

【Reference】

 

相続分の計算

二男と長女に対する生前贈与は特別受益にあたると考えられますので、遺産分割にあたって各相続人の相続分が修正されます。

特別受益控除後の相続分

特別受益者がいる場合、具体的な相続分に計算にあたっては、相続開始時の財産総額に生前贈与財産の価額を加えます(特別受益の持ち戻し)。
ご相談の内容からすれば、 財産総額1,600万円+生前贈与額800万円=2,400万円です。
これが法律上、相続財産とみなされる財産の総額です。

これに対する法定相続分は、次のとおりとなります。
母  :2,400万円×2分の1=1,200万円
子4名:2,400万円×8分の1= 300万円ずつ

しかし、贈与や遺贈によって受けた特別受益は差し引かれますから、
長男:300万円-遺贈1,000万円=▲700万円
二男:300万円-贈与500万円=▲200万円
長女:300万円-贈与300万円=0円
となり、いずれも相続分より多く特別受益にあたる遺贈・贈与を受けていますから、遺産の残りを取得する権利はありません(反対に、超過分を返す必要もありません)。

 

遺産の残りを取得することが出来るのは、母と相談者のお二人だけとなったわけですが、母の相続分1,200万円、相談者の相続分300万円、合計で1,500万円の相続分に対し、現実に配分できる遺産は600万円しか残っていません。

そこで、この600万円については、母と相談者のお二人だけで、法定相続分に応じて配分します。

具体的相続分

母 :600万円×(1,200万円/(1,200万円+300万円))=480万円
相談者:600万円×(300万円/(1,200万円+300万円))=120万円
これが、お母様と相談者がそれぞれ主張できる相続分になります。

 

遺留分の計算

遺贈や贈与がある場合でも、一定の相続人には、相続財産の一部を最低限確保する権利が認められています。これが『遺留分』です。 遺留分の権利を主張することができる人のことを『遺留分権利者』といい、遺留分権利者は侵害された遺留分について受遺者・受贈者に返還を求めることができます。

遺留分の計算例

まずそれぞれの遺留分を求めますが、相続人が複数いるので、遺留分割合2分の1に法定相続分割合をかけます。
すると、
母  :2分の1×2分の1=4分の1
子4名:2分の1×8分の1=16分の1ずつ となります。

次に、遺留分の基礎となる財産額は、相続開始時の財産総額に一定の生前贈与財産の価額を加えて求めますが、特別受益にあたる贈与財産は無条件で算入します。
今回のご相談では、相続分の計算と同じく2,400万円です。

したがって、遺留分額を計算すると、
母  :2,400万円×4分の1=600万円
子4名:2,400万円×16分の1=150万円ずつ となります。

先に計算した相続分のとおりに、遺産の残り600万円を母:480万円と相談者:120万円で配分したとするならば、二人とも手にした遺産が遺留分より少ないです。
母  :480万円-600万円=▲120万円不足
相談者:120万円-150万円=▲30万円不足
この不足分については、それぞれが『遺留分減殺請求権』を行使することができます。

遺留分減殺請求の対象は順番が決まっており(Q074)、遺贈と贈与が両方ある場合にはまず遺贈を減殺しますので、このケースでは不動産の遺贈を受けた長男に対し遺留分減殺請求権を行使することになります。

減殺請求をすると、遺贈の目的物は不動産ですから、侵害額に応じた割合で共有になります(長男:母:相談者=850:120:30)。 これに対し長男は、価額賠償をすることによって不動産の共有を回避することができます(Q073)。

 

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2014年3月18日 | カテゴリー :

Q076 遺留分放棄によって遺留分が増える?

【Question】

2ヶ月前に、父が亡くなりました。相続人は、母・私・妹の3人です。

父は、「全財産を妻に相続させる」という遺言公正証書を残していました。
妹は遺留分を請求しないと話しているのですが、妹が請求しないぶん、私の遺留分が増えることになるのでしょうか。

 

【Answer】

遺留分権利者のうちの1人が遺留分を放棄しても、他の相続人の遺留分には影響しません。
したがいまして、妹さんが遺留分を放棄したからと言って、あなたの遺留分が増加することはありません。

 

【Reference】

遺留分は放棄できる

相続が開始したは、遺留分権利者は自由にその遺留分を放棄することができます。特に手続きは必要ありません。

いっぽう、相続が開始するに遺留分を放棄するには、家庭裁判所の許可が必要です(民法1043条1項)。
これは、親が子に、夫が妻に圧力を加えて遺留分放棄を強要するおそれがあるので、どのような事情があって相続発生前に遺留分を放棄するのかを、きちんと家庭裁判所で審査することになっているのです。

それでは、どのような場合に、家庭裁判所は相続開始の遺留分放棄に許可を出すのでしょうか?

家庭裁判所が相続開始前の遺留分放棄を許可する要件は、次の3点とされています。
(1)遺留分権利者の自由な意思に基づくものであること(外部からの強制ではないこと)
(2)遺留分放棄に合理性があること
(3)遺留分放棄の代償が支払われていること

相続が発生すらしていないのにもかかわらず、わざわざ家庭裁判所で遺留分放棄の手続きをするというのは、ほとんどの場合、自発的なものであるはずがありません。「誰かから頼まれている」のが通常であって、遺留分の事前放棄にあたっては、何かしらの対価が手渡されていると考えるのが自然です。そこで(3)が要件に入っているわけです.

このように、ある推定相続人に対して、相続開始のに遺留分を放棄してもらうには、結局のところ財産をあらかじめ渡しておく必要があります。
現実に代償が渡される必要がありますから、「5年後に1,000万円渡す」という約束では、遺留分の事前放棄は許可されません。

なお、遺留分を放棄してもらうためにあらかじめ渡された財産は『贈与税』の対象になりますから、一度に大きな財産を贈与できる『相続時精算課税制度』等がしばしば活用されます。

 

このように、遺留分放棄には家裁の許可が必要ですが、それでも許可を受けさえすれば、相続が開始する前に遺留分を放棄できるわけです。
この点では、『家庭裁判所の相続放棄手続き』が、相続開始前には一切認められていないのと大きく違っています。

なお、事前に遺留分を放棄しても、故人が遺言を書いていないならば、相続開始後に相続人として自己の相続分を主張することはできます。

 

遺留分放棄によって他の相続人の遺留分は増加しない

遺留分権利者のうちの1人が遺留分を放棄しても、他の相続人の遺留分には影響しません。
誰かが遺留分を放棄したことによって得をするのは、遺贈や贈与によって財産を取得した人だけで、他の遺留分権利者ではないのです。

 

遺留分を放棄した相続人も、債務は承継する

遺留分を放棄しても相続権を失うわけではありませんから、被相続人が債務を残して死亡した場合、遺留分を放棄した相続人も、故人の債務を法定相続分に応じて当然に分割承継することになります。これを回避するには、相続開始後に家庭裁判所で相続放棄の手続きを取る他にありません。

 

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2014年3月20日 | カテゴリー :