Q100 遺言を訂正するには

【Question】

自筆証書遺言を書き終えましたが、一か所だけ、土地の面積を書き間違えてしまいました。

遺言の内容そのものは変わらないので、書きなおすのではなく、なるべく簡単に訂正して済ませたいと思います。

どのように訂正すればいいのでしょうか。

 

 

【Answer】

遺言の内容を変えることなく、ごく一部を訂正するだけでしたら、民法に規定された方法で訂正することができます。

民法に規定された訂正方法を守らないと、訂正そのものが無効になり、訂正する前の内容が有効なものとして扱われます(遺言自体が無効になるわけではありません)。

ただし、訂正個所が多い場合には、書きなおしたほうが無難です。

 

【Reference】

偽造・変造されることを防ぐため、民法で、自筆証書遺言を作るルールは厳格に決められています。
同じ理由で、自筆証書遺言の訂正方法も厳格です。民法968条2項という条文がそれです。

「自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。」(民法968条2項)

このルールさえ守れば適切な訂正になりますが、一般的には、次のようにして訂正します。

(1) 削除する部分を、二重線で消します。
(2) 二重線の上(縦書きなら右わき)に、訂正した文言を記入します。
(3) 二重線にかかるように、印鑑を押します。遺言書を作成したときに押した印鑑と同じ印鑑であれば、理想的です。
(4) 余白で、訂正した場所を指定し、訂正した字数を付記します(下の例をご参照)。
(5) (4)のわきに署名します。

(クリックすると拡大します)
自筆証書遺言の訂正方法

このルールを守らないで行われた自筆証書遺言の訂正は、「その効力を生じない」と定められています。
つまり、訂正されなかったことになり、訂正する前の内容が有効なものとして扱われるということです。
遺言書それ自体が無効になるわけではありません。

このように、自筆証書遺言は訂正が難しく面倒なので、必ず下書きをしてから清書するようにします。
もし間違えた場合には、大変ですが、できるだけ書きなおすことをおすすめします。

 

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2014年6月10日 | カテゴリー :

Q101 遺言を撤回・変更するには

【Question】

5年前に遺言書を作成したのですが、その後身辺に変化が生じたので、古い遺言を撤回して新しく作り直したいと考えています。どうすればいいでしょうか。

 

【Answer】

自筆証書遺言の場合には、遺言書がお手元にあれば、それを破棄して作りなおすだけでも十分です。

公正証書遺言の場合には、原本は公証役場に保管されています。
そのため、お手元にある公正証書の「正本」「謄本」を破棄しただけでは、遺言を撤回したことになりません

公正証書遺言を撤回するには、「以前の遺言を撤回する」という内容を含めた、新しい遺言を作ります。
この新しい遺言は、自筆証書遺言にしてもかまいませんが、どのような内容であっても自筆証書遺言である限り、家庭裁判所の検認手続きが必要になってしまいます。
やはり、公正証書で作り直すことをおすすめします。

 

【Reference】

遺言書は何度でも作りなおすことができます
丸々全部を撤回し、作り直すこともできますし、一部を変更することも可能です。
(※ただし、自筆証書遺言の場合には、変更するならば作り直したほうが確実です)

なお、 間違いや変更がわずかであれば、それが自筆証書遺言の場合には遺言書を訂正すれば済みます。

 

自筆証書遺言の撤回・変更

自筆証書遺言は、次の方法をもちいて、撤回したり変更したりすることができます。

(1) 破棄して作り直す。
(2) 「以前の遺言を撤回する」という内容の遺言を作成する。

どちらかの方法でかまいませんが、(1)と(2)の両方を併用すると、より確実になります。

なお、以前書いた遺言の一部だけを撤回・変更することもできますが、撤回・変更する場所をきちんと特定する必要があります。
たとえば、
「何年何月何日付けで作成済みの遺言書のうち、第何条を撤回して下記のように変更する。」
として、新しい内容を記載するようにします。

ただし、このような一部の撤回・変更は、一歩間違えると遺言者の意図とは異なる内容になってしまう危険性があります。
自筆証書遺言では、一部だけを撤回・変更するよりも、全部作り直したほうが確実です。

 

 

公正証書遺言の撤回・変更

公正証書遺言の場合には、原本は公証役場に保管されています。
そのため、公正証書の「正本」「謄本」を破棄しただけでは、遺言を撤回したことになりません
公正証書遺言を撤回するには、「以前の遺言を撤回する」という内容の新しい遺言を作らなければなりません。

この新しい遺言書は、公正証書でも自筆証書でもかまわないことになっています。
しかし、自筆証書遺言である以上、どのような遺言であっても、発見した人が家庭裁判所に検認の申し立てをしなければなりません。
また、撤回前の公正証書遺言を利用して、不動産の相続登記(名義変更)や銀行預金の解約を行うことができてしまうという危険性もあります。
トラブルを避けるために、新しい遺言もなるべく公正証書遺言にするべきです。

なお、公正証書で遺言の全部または一部を取り消すだけなら、公証人手数料は11,000円です(公証人手数料令19条2項)。
内容を変更するとさらに所定の手数料がかかりますが、変更の内容が「補充又は更正」の範囲であるならば、所定の手数料の2分の1(以前と同じ公証役場なら4分の1)で済みます(同24条2項)。

 

遺言が2つある場合の取り扱い

上記のように、「以前の遺言書を撤回する」という一文を新しい遺言に盛り込んでおけば、問題は生じません。

しかし、このような文章が入っておらず、内容の異なる2通以上の遺言書が存在する場合があります。
たとえば、「A土地を長男に相続させる」と書かれた遺言と、「A土地を次男に相続させる」と書かれた遺言の、両方が見つかるケースです。この場合、A土地に関する記載内容は、明らかに矛盾しています。

内容の矛盾する2通以上の遺言がある場合には、矛盾している部分についてだけ、作成日付の新しい遺言が古い遺言に優先し、その部分については古い遺言の内容が取り消されたものとみなされます
公正証書か自筆証書かは関係なく、単純に日付が新しいほうが有効になります。

なお、矛盾が生じていない部分については、それぞれの遺言はどちらも有効です。

 

 

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2014年6月12日 | カテゴリー :

Q102 遺言に書いた財産を売却したくなったら

【Question】

8年前、自宅を長男に、賃貸アパートを次男にそれぞれ相続させるという内容で、公正証書遺言を作成しました。

しかし、近頃、私の足が不自由になってきたので、アパートを売却して有料ホームに入ることも検討しています。アパートを売却するには、公正証書遺言を撤回しなければならないのでしょうか。

 

 

【Answer】

遺言を撤回しなくても、売却できます。

遺言書に書いた財産を売却した場合、遺言書のその部分については、売却によって自動的に撤回されたものとみなされます
遺言の他の部分には、影響ありません。

したがって、アパートを売却する前提として遺言を撤回・変更する必要はありません。

ただし、売却によって、推定相続人の間に不公平が生じることが考えられます。
ご相談者の場合、次男さんに相続させる財産がなくなってしまうので、その遺留分を侵害してしまいます。
遺留分をめぐって、兄弟間でもめてしまう可能性があります。

この不公平を是正するには、遺言書の撤回・変更をするか、あるいは不利益を受けた推定相続人(次男さん)に生前贈与等で手当てをしておくことが考えられます。

 

【Reference】

 

遺言を書いても、遺言者は自由に財産を処分できる


「遺言を書いたら、財産が自分のものではなくなってしまう」というのは、大きな誤解です

財産の引き継ぎ方を遺言で定めたとしても、遺言者が健在である限り、すべての財産は遺言者のものです。煮ようが焼こうが、すべて遺言者の自由です(本当に焼いちゃいかんですが)。

遺言は、しょせん万一の事態に対する備えに過ぎません。「遺言を書いたからには、きっちり残しておかなければ…」などと考えるのではなく、人生のために有意義に、どんどん使っていただきたいと思います。

 

遺言と矛盾する生前行為があった場合、どうなるか

遺言を作成した後、遺言に記載した財産について、遺言者が売却・生前贈与・寄付・破毀などの生前処分を行うと、遺言の内容と遺言者の生前処分とが矛盾します。
このような矛盾がある場合、遺言より後になされた生前処分が遺言に優先し、その生前処分に関する部分についてだけ、遺言が撤回されたものとみなされます(民法1023条2項)。

したがって、遺言者が売却等の生前処分をするにあたって、遺言の撤回・変更の手続きをとる必要はありません

 

遺留分には注意が必要

このように、遺言を書いた後でも、財産は自由に処分できます。

しかし、気をつけなければならないのは、生前処分によって推定相続人の遺留分を侵害する可能性がある、という点です。

遺産をめぐる争いを防ぐために遺言を作成したのだとすれば、明らかに遺留分を侵害するという事態は避けたいところです。

売却等の生前処分によって推定相続人の遺留分を侵害することが明らかである場合には、遺言書そのものを見直して撤回・変更するか、あるいは生前贈与によって手当をするか、いずれかの対策が必要になるでしょう。

 

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2014年6月17日 | カテゴリー :

Q104 ペットに遺産を残すには? (負担付遺贈等)

【Question】

私には子供がおらず、私が亡き後は、すべての遺産を弟が継ぐことになっています。

気がかりなのは、何よりもかわいい3匹の猫ちゃんです。
弟はマンション暮らしで、猫に興味がありません。

私が元気な間は、できるだけ猫ちゃんと一緒に暮らしたいと希望しています。
そして、私が亡き後はこの猫ちゃんに私の遺産を残して、誰かに可愛がってもらいたいと考えています。

何か良い方法はないでしょうか。

 

 

【Answer】

ペットなどの動物や植物は、財産を所有できません。

そのため、直接猫ちゃんに遺産を残すことはできませんが、信頼できる人に遺産をのこし、その代わりにペットの面倒を見てもらう方法があります。

その方法としては、

(1)「負担付遺贈」
(2)「負担付死因贈与契約」
(3)「信託」

という方法をあげることができます。

これらについて詳しくは下に解説しますが、方法よりも何よりも大切なことは、「万一の際にはあなたの期待にこたえ、確実に猫ちゃんの世話をしてくれる人を見つけておけるかどうか」にかかっています。

ペットの里親を探してくれる団体もありますが、里親さんがあなたの期待にこたえてくれる人かどうかわかりません。
また、このような団体はほとんどがボランティアです。できる限りボランティアの皆さんに負担はかけたくないところです。

ボランティア団体にお世話になる前に、まずは自力で猫ちゃんの面倒を見てくれる人を探してみるほうが、猫ちゃんたちにとって幸せだろうと思います。

そのうえで、方法を検討してみてはいかがでしょうか。

 

【Reference】

 飼い主さんからの相談は、意外と多い

「私の亡き後、ペットをどうすればいいでしょうか?」
というご相談をいただくことは、案外多いものです。つい先日も電話でお問い合わせをいただきました。

ペットは家族の一員だ、という表現があります。
しかし、家族と異なり、動物や植物は財産を所有できず、遺産をもらうことができません。
そこで、ペットに遺産を残すには、信頼できる人にペットの世話を頼み、代わりにその人に遺産を残しておくという方法が基本になります。

そこで、ペットに愛情を注いでくれる、信頼できる人を見つけることができるかどうかが大切になりますが、ここではそのような人が見つかったとして、それを実行に移す方法を検討してみます。

 

(1)負担付遺贈による方法

負担付遺贈とは、飼い主さん(遺贈者)が遺言書を作り、特定の人(受遺者)に遺産をわたす代わりに、条件としてペットの世話を負担してもらう方法です。
負担付遺贈によるメリットには、次のようなものが考えられます。

  1. 老いじたくとして最適
    遺言書なので、ペットに関する負担付遺贈のほかにも、土地建物や預貯金等の遺産を誰に承継させるかなど、さまざまな内容を盛り込むことができる。
  2. 次順位者を指定できる
    ペットの世話を約束してくれた人が先に亡くなってしまった場合等に備え、第2順位の受遺者を指定しておくことができる(予備的遺言)。

反面、デメリットとして、次のような点に注意が必要です。

  1. 遺贈は自由に放棄できてしまう
    遺言は、受遺者の承諾を受けることなく、遺言者の単独で作成できてしまうので、受遺者には遺贈を放棄する権利があります。ペットの世話をしたくないなら遺贈を放棄してしまえばよいので、負担付遺贈は確実性という点で若干劣ります。
    これを避けるには、信頼できる人に遺贈するということはもちろん、あらかじめ相手方の承諾を得ておくことが大切です。
  2. 遺留分に対する配慮が必要
    遺留分を主張することができる相続人が存在する場合、遺留分を侵害しない範囲で遺贈しないと、受遺者が遺産争いに巻き込まれてしまいます。
    (なお、次の「負担付死因贈与契約」や「信託」の方法を利用しても、遺留分に対する配慮が欠かせないという点では変わりません)
  3. 財産の多い方は相続税に注意
    相続財産が相続税の基礎控除を超える場合、相続税の問題が生じます(受遺者が法人でなく個人の場合)。
    受遺者にも相続税がかかりますので、注意が必要です。
    (この点も、次の「負担付死因贈与契約」や「信託」の方法を利用しても同じです)

なお、遺言の中で必ず遺言執行者を指定しておくことをおすすめします。
受遺者がお金だけ受け取ってペットの世話をしないような場合、遺言執行者から受遺者に対しペットの世話をするように請求できます。それでも受遺者が義務を果たさない場合には、家庭裁判所に遺贈の撤回を申し立てることができるので、より安心です。

 

(2)負担付死因贈与契約による方法

飼い主さんが、相手方との間で、ペットの世話をすることを条件として、自分が死亡したときには遺産の全部または一部を贈与するという約束(契約)をする方法です

(1)の負担付遺贈と異なり、お互いの間で『約束』があるという点に大きな違いがあります。約束ですので、一方的に変更・撤回することはできません。

(贈与する人(贈与者)が、贈与を受ける人(受贈者)にタダで財産をあげる約束の事を贈与契約といいますが、「贈与者が死亡したらあげる」という条件がついていると、これが死因贈与契約になります。
さらに、贈与者が受贈者と何らかの義務を果たしてもらう約束をつけると「負担付」となります。わかりにくいですね。)

負担付死因贈与契約によるメリットには、次のようなものが考えられます。

  1. 確実性が高い
    (1)の負担付遺贈と違い、贈与する人ともらう人との間に『約束』があるので、守ってもらえる可能性が高いといえます。
    この契約は口約束でも成立しますが、間違いを避けるためには契約書という形で書面を取り交わしておくべきであり、また相続人とのトラブルを避けるためにも公正証書にしておくことをおすすめします。

 

反面、デメリットとして、次のような点に注意が必要です。

  1. 相手方から必要以上に警戒される
    「契約書に署名捺印する」「公正証書を作る」というのは、普通の人は嫌がります。「そんなことするくらいならお断りします」と言われてしまうかもしれません。
  2. 遺留分に対する配慮が必要
    遺留分を主張することができる相続人が存在する場合、遺留分を侵害しない範囲で贈与しないと、受贈者(相手方)が遺産争いに巻き込まれてしまいます。
  3. 財産の多い方は相続税に注意
    相続財産が相続税の基礎控除を超える場合、相続税の問題が生じます。受遺者にも相続税が2割増しでかかりますので、注意が必要です。
    なお、名前は「死因贈与契約」でも、かかるのは贈与税ではなく相続税です。

なお、死因贈与契約には遺言の法律が適用されるので、(1)の遺言執行者に相当する死因贈与執行者を指定しておくことをおすすめします。
受贈者がお金だけ受け取ってペットの世話をしないような場合、執行者から受贈者に対しペットの世話をするように請求できます。それでも受贈者が義務を果たさない場合には、家庭裁判所に死因贈与の撤回を申し立てることができるので、より安心です。

 

(3)「信託」による方法

一部の司法書士・行政書士が、「ペット信託」という商標まで取って商品化しているようですが、結論から申し上げれば、お勧めしません。

かなり資産がある方やペットがたくさんいる方にはいいのかもしれませんが。

 

管理会社を設立して、信託契約書や遺言書を作る…etc
専門家にはわかる話でも、一般の方には理解しがたい複雑な話です。
古今東西、仕組みが複雑な商品が、良い商品とは限りません。

費用もかなり高額のようですし。

信託を設立したことで遺留分を侵害された相続人は、遺留分減殺請求権を行使できます。

 

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2014年6月25日 | カテゴリー :

Q105 遺言書が見つかったらどうするか(検認手続き)

【Question】

亡くなった父の机を整理していたところ、父の字で『遺言書』と書かれた封筒が出てきました。これは、どこへ持っていけばいいのでしょうか。

 

【Answer】

その『遺言書』は、公正証書ですか?

それが公正証書なら、特別な手続きは必要ありません
中を読んで遺言執行者が指定されていたら、その人に連絡してください。
遺言執行者が指定されていなければ、他の相続人に知らせるとともに、心配ならお近くの司法書士に相談してみると良いでしょう。

これに対し、公正証書ではない場合には、家庭裁判所で『検認』の手続きを受ける必要があるのですが、その前に注意点があります

  1. まず、封印されていたら、勝手に開封してはいけません
    開封したことで遺言が無効になるわけではありませんが、封印されているのに家庭裁判所ではない所で開封すると、5万円以下の過料に処せられます。
  2. 次に、公正証書ではない遺言書は、なくしたら取り返しがつきませんので、安全なところに保管して下さい。
    検認の申し立てには、遺言者の出生~死亡を証するすべての戸籍・除籍謄本をはじめ、さまざまな書類を準備する必要があり、時間がかかります。その間に紛失したら大変なので、保管場所に十分ご注意ください。

準備が出来たら、すみやかに家庭裁判所に検認の申し立てをしなければいけません。手続きについては家庭裁判所に直接問い合わせるか、お近くの司法書士にご相談ください。

なお、封印されていない遺言書は中を読むことが出来るわけですが、仮にその内容があなたに不利な内容であっても、捨ててはいけません。遺言書を破棄したり隠したりすると、相続権が剥奪されて一切の権利を失います相続欠格)。

 

なお、検認の申し立ては、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。

 

【Reference】

どうして検認が必要になるのか

公正証書ではない遺言書については、遺言書を保管していた人や、遺言書を発見した人は、「相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない」とされています。民法1004条です。

どうして検認という手続きが必要なのかというと、わかりやすく言えば、偽造・変造を防止するためです。

検認を申し立てると、検認期日が指定され、相続人全員が家庭裁判所に呼び出されます。この検認期日に、封印された遺言は開封され、また、筆跡が遺言者のものかどうか相続人に対して確認し、偽造や変造がないことを確認します。

さらに、家庭裁判所は、検認の結果を検認調書として記録します。この調書には、遺言書や封筒の紙質・形状・枚数・大きさや使用された筆記用具などが記録され、遺言書の写しが添付されています。そのため、もしも検認の後に遺言書が変造されても、検認調書謄本と照合すれば見破ることができるようになっているのです。

自筆証書遺言など、公正証書ではない遺言書は、偽造変造のリスクにさらされているので、このような検認手続きが必要になるのです。

いっぽう、公正証書遺言の場合には、原本が公証役場に保管されているので、偽造・変造のリスクがほとんどありません。そのため検認の手続きを必要としないのです。

 

検認によって遺言が有効になるわけではない

上記のように、遺言書の検認手続きは、遺言書の偽造・変造を防止するために、現に存在する遺言書をあるがままの状態に保全するための手続きです。

そのため、検認手続きの中では、「遺言が有効であるかどうか」とか、「遺言が遺言者の真意に基づくものかどうか」などということは、いっさい審理されません。

検認を受けたからと言って、その遺言が有効であると定まったわけではないのです。

 

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2014年6月27日 | カテゴリー :

Q106 受遺者が先に亡くなった場合、遺言の効力は?

【Question】

私は、長年お世話になったAさんに預貯金の一部を遺贈することにして、3年前に遺言書を書きました。

ところが、つい最近、急な病で受遺者のAさんが亡くなったと聞き、大変おどろきました。

この場合、私は遺言書を書き直す必要があるのでしょうか?

 

【Answer】

受遺者Aさんに遺贈するはずだった財産について、万が一Aさんのほうが先に亡くなった場合にどうするかをあらかじめ遺言書の中で定めていないならば、遺言書のうちAさんへの遺贈に関する部分については効力がなくなります。

Aさんのご遺族に財産を遺贈するお気持ちがあるのならば、遺言の書き直しが必要です。

 

【Reference】

遺言は、原則として遺言者が死亡した時から効力が発生します(民法985条1項)。

しかし、遺言に書かれている内容のうち『遺贈』という行為は、遺贈者(あげる人)が受遺者(もらう人) との間に強い関係があるからこそなされるわけですから、受遺者のほうが先に亡くなると遺贈は効力を失い、受遺者の相続人はその地位を承継しないものとされています(民法994条1項)。

つまり、『遺贈』の場合には、代襲相続にあたる制度が存在しないのです。

遺贈が効力を失ってしまうと、遺贈されるはずだった財産は遺贈者の相続人のものとなります。相続人が複数いる場合には、遺産分割協議によって相続する人が決まります。これを避ける必要があるのならば、遺言の作り直しが必要です。

ただし、遺言書の中であらかじめ、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡した場合には受遺者の相続人に遺贈すると定めたり、まったく別の人に遺贈すると決めておいたりした場合には、その定めは有効です。

 

それでは、遺言書の内容が、ある人への『遺贈』ではなく、相続人の中の誰かに『相続させる』という遺言であった場合に、その相続人が先に亡くなった場合にはどうなるのでしょうか。亡くなった相続人の子が代襲相続するのでしょうか?
これについては比較的新しい最高裁判例があるので、次の Q107 で説明します。

 

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2014年6月30日 | カテゴリー :

Q107 「Aに相続させる」という遺言があるが、Aが先に亡くなったら?

【Question】

祖父Xは、「長男Aにすべての財産を相続させる」という遺言を残して亡くなりました。
長男Aは私の父であり、Aの相続人は私一人だけです。

しかし、祖父が亡くなった段階で、すでに私の父Aは亡くなっていました。発見された遺言書には、Aが先に亡くなった場合にどうするか、指示されてはいません。

祖父には、私の父A以外にも数人の子がいるのですが、私は父Aを代襲して、遺言により祖父のすべての遺産を代襲相続できるのでしょうか?

 

【Answer】

原則としては、「相続させる」という遺言代襲相続は適用されません

したがいまして、遺言によってあなたがご祖父様の全遺産を代襲相続することにはなりません。その遺産はその相続人が共同で相続し、その帰属は遺産分割協議によって決められることになります。

なお、あなたは亡きお父様の相続人としての地位を代襲するのみで、その限りで遺産分割協議に参加することができます。

ただし、遺言書のその他の記載や遺言作成当時の事情、遺言者の置かれていた状況などから、ご祖父様があなたに代襲相続させる意思があったとみられる特段の事情があると認められる場合には、例外的に、あなたが全遺産を代襲相続できるとする余地があります(遺留分の問題は別)。

 

【Reference】

『「相続させる」遺言』と『遺贈』

遺言の中である人に対して遺産を与えると記述する場合、その表現としては、「遺贈する」と書く方法があります。『遺贈』は民法986条以下に定めがあります。

しかし、遺産を与える相手が相続人以外の第三者というケースはどちらかというと少なく、実際の遺言では、遺産を与える相手が推定相続人の一人であるケースのほうがずっと多いです。

このようなケースでは、一般的には「・・・に相続させる」という表現が使われます。これが『「相続させる」遺言』と呼ばれるものです。

いかにも法律家的な発想なので恐縮なのですが、法律の世界では、『「相続させる」遺言』と『遺贈』とを厳密に区分します(Q024)。
民法の条文上も、『「相続させる」遺言』は908条(遺産分割方法の指定)で、『遺贈』は民法986条以下、という具合です。

どちらでも同じだろうと思われるかもしれませんが、『「相続させる」遺言』には、『遺贈』にはない次のようなメリットがあります。

(1) 不動産について、相続人だけで登記を申請できます。
(2) 不動産について、登記しなくても第三者に対抗できます。
(3) 農地の場合、農地法の届出・許可が不要です。
(4) 借地や借家の相続の場合,賃主の承諾が不要です。 (以前は不動産登記の登録免許税も違ったのですが、現在は大差ありません)

そこで、相手が相続人である場合には、「遺贈する」ではなく、「相続させる」という表現が多く使われるわけです。

 

  『「相続させる」遺言』は代襲されない

『遺贈』の場合、受遺者(遺贈する相手)が遺言者よりも先に亡くなった場合、受遺者の相続人が受遺者の地位を代襲することはありません(これについてはQ106をごらんください )。これは民法994条1項によってはっきりしています。

では、『「相続させる」遺言』ではどうでしょうか。こちらは条文がありません。

この点については、代襲を認める考え方と認めない考え方の両方があり、裁判所の扱いも分かれていましたが、平成23年2月22日最高裁判決で、「原則として代襲を認めない」という結論が出ました。

代襲を認めない理由は、『遺贈』の場合とほぼ同じです。
たとえば、長男に遺産を「相続させる」という遺言があって、その長男が先に亡くなってしまった場合、その長男の子(遺言者の孫)が何人かいるとしたら、孫のそれぞれに平等に相続させたいのか、それともその中の一人に相続させたいのか、はたまたまったく別の人に相続させたいのか、遺言者の意思がわかりません。そこでこのような場合には、その「相続させる」遺言を無効として扱うことにしたのです。

ただし、同判決は、例外として、遺言書のその他の記載や遺言作成当時の事情、遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が代襲者その他の者に相続させる意思があったとみられる特段の事情があると認められる場合には、代襲の余地を認めています。

しかし、この「特段の事情」は、裁判手続きの中でごく例外的に認められるに過ぎません。代襲を認めないというのが原則的な考え方である以上、遺言作成の段階であらかじめ備えておくことが大切になります。遺言作成について、専門家のアドバイスを受けたほうが良い理由の一つが、ここにあるのです。

 

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2014年7月3日 | カテゴリー :

Q108 お世話になった人に財産をのこすには(遺贈)

【Question】

私には妻も子もおらず、親族としては妹とその家族しかいません。

そこで、私が死亡したら、財産はいろいろとお世話になったAさんに残したいと考えています。どのような手続きをすれば良いのでしょうか。

 

【Answer】

次のどちらかの方法が考えられます。

(1)遺贈・・・・・遺言を作成して、Aさんに財産を遺贈する。
(2)死因贈与・・・Aさんと死因贈与契約を締結する

(1)は一人でできます。
(2)だと、相手のAさんの承諾が必要です。

今回のようなケースでは、一般的には(1)の遺贈を利用することが多いと思います。

注意点としては、必ず遺言の中で遺言執行者を指定してください。遺言で遺言執行者を定めておかないと、Aさんに遺産を渡す手続きをあなたの相続人(妹さん)が行うか、または家庭裁判所に遺言執行者を選任してもらう必要がでてきてしまいます。
同様に、(2)の死因贈与契約の場合でも、契約書の中で死因贈与執行者を定めておくべきです。

なお、ご相談者様の場合には遺留分は問題になりませんが(兄弟姉妹には遺留分がない)、遺留分権利者がいる場合には、その遺留分を侵害する遺贈・贈与はできない点に注意が必要です。

 

 

【Reference】

相続人ではない第三者に遺産を与えるには、『遺贈』という方法があります。

『遺贈』については本Q&Aでも何度か触れていますが、ここで整理してみます。

 

『遺贈』とは?

遺贈とは、遺言を利用して、ある人に無償で財産を与えることをいいます。

遺贈を受ける人のことを、『受遺者』と呼びます。

『遺贈』とよく似た方法に『死因贈与契約』というものがありますが、遺贈は遺言者が単独ででき(死因贈与は契約なので相手方の承諾が必要)、方法は遺言を利用しなければなりません(死因贈与は遺言ではできない)。

なお、遺贈は、個人でも法人でも誰にしてもすることができますが、相続人の遺留分を侵害することはできません(民法964条但し書き)。

 

遺贈の種類

遺言で、相続人ではない人や団体に財産を与えると書けば、それは『遺贈』になります。遺贈にも2つの方法があります。

1つは、「Aさんに遺産の2分の1(あるいは全部とか3分の1とか)を遺贈する」というように、割合で定めて一括して与える方法で、これを”包括遺贈”といいます。
包括遺贈を受けた人(包括受遺者)は、相続人と同じ権利義務を負い(民法990条)、他の相続人とともに遺産分割に参加し、遺言で定められた自己の割合を主張することになります。もめることが当然に予想されますので、他に相続人がいる場合にはあまり利用されません。
また、遺言者に借金などのマイナスの財産があれば、包括受遺者も遺贈の割合に従ってこれを負担しなければなりません。
なお、包括受遺者は相続人そのものではないので、代襲や遺留分は認められません

もう1つは、「Bさんにどこそこの家屋を遺贈する」というように具体的な財産を指定して遺贈する方法で、これを”特定遺贈”といいます。

なお、”相続人に対する遺贈”も間違いではありません。遺贈は、相続人ではない人に対しても相続人に対しても行うことができます。
もっとも、相続人に対して特定遺贈をした場合には、実質的には民法908条の遺産分割方法の指定として扱われます(ただし、不動産登記の手続きは遺贈の方式による)。

なお、受遺者に一定の義務を課す負担付遺贈という区別もあります。この負担付遺贈ついては、Q104をごらんください。

 

受遺者の要件

(a)遺言者の死亡以前に受遺者のほうが先に死亡していた場合

遺言者の死亡以前に受遺者のほうが先に死亡していた場合、遺贈は無効になります。
ただし、受遺者が死亡していた場合にどうするか、その取り扱いを別に記載しておけば、その記載に従います。詳しくは Q106 をごらんください。

(b)胎児は生まれたものとみなされる

胎児はすでに生まれたものとみなされ、受遺者になることができます(民法965条、886条)。
ただし、死産の場合には、遺贈は無効になります。

 

遺贈の承認・放棄

(a)包括遺贈の場合

包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有するので、遺贈を放棄するには、自己のために包括遺贈があったことを知った時から3ヶ月以内家庭裁判所に放棄の申述をする必要があります。限定承認も同様です(民法915条, Q078 )。

(b)特定遺贈の場合

受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも特定遺贈を放棄することができます(民法986条1項)。方式は定められていないので、遺贈義務者である遺贈者の相続人または遺言執行者に対し意思表示をするだけで、特定遺贈は放棄できるのです。

もっとも、期間制限が無いので、利害関係者はいつもでも不安定な立場に置かれてしまいます。そこで、相続人や遺言執行者の側から、相当の期間を定めて催告し、その期間内に回答が無い時は特定遺贈を承認したものとみなされる制度があります(民法987条)。

 

 

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2014年7月8日 | カテゴリー :

Q109 遺言執行者とは、何をする人?

【Question】

私の家族は妻と子3人です。遺産争いで家族の関係が悪くならないように、遺言書を作ることを検討しております。

遺言の中で、家族への遺産の配分の他に、ある福祉団体に現金を寄付したいと考えています。
このような場合には遺言執行者を決めておくとよいと聞いたのですが、どのような人を遺言執行者に指定すればいいのでしょうか。また、遺言執行者はどのような仕事をする人なのでしょうか。

 

【Answer】

ご相談者様の場合、相続人に対する遺産分割方法の指定と、福祉団体への遺贈(特定遺贈)とが、遺言の主な内容になると考えられます。

相続人以外の個人や団体への遺贈がある場合、相続人ではない第三者を遺言執行者に指定しておくことをおすすめします。なぜなら、第三者への遺贈は、相続人と利害関係が対立するからです。
相続人全員が協力して遺贈を執行してくれるならば、遺言執行者は必ずしも必要ありません。しかし、寄付(遺贈)の実行を確実にしたいなら、第三者を遺言執行者にするのが一番です。

遺言執行者になってくれそうな人には、あらかじめ就任を承諾してもらうことが大切です。あなたに万一の際、すみやかに遺言執行者の職務を果たしてもらうためです。

なお、このような遺言執行では法律的知識を要しますので、弁護士や司法書士を指定することが多いです。

 

【Reference】

遺言の執行とは

遺言の執行とは、遺言の効力が発生した後(つまり遺言者の死亡後)、その遺言の内容を実現する手続きのことです。

遺言事項 の中には、執行を必要としないものもありますが(たとえば「相続分の指定」)、執行を必要とするものも数多くあります(たとえば、「子の認知」「推定相続人の廃除や廃除の取消し」「特定遺贈」など)。

 

遺言執行者とは

上記のような遺言の執行をするために、特に選任された人のことを遺言執行者といいます。

遺言事項のうち、次の内容については遺言執行者が必須になっています。これは、相続人が執行するのが適切ではないからです。

(1)子の認知(民法781条2項)
(2)推定相続人の廃除や廃除の取消し(民法893条、894条2項)

これ以外の内容(たとえば遺贈)については、必ずしも遺言執行者を必要としません。そこで遺言執行者がいない場合には、共同相続人全員が協力して遺言を執行することも可能です。しかし、遺言の内容は相続人が利害関係を有することが多くなるべく遺言執行者によって執行されることが望ましいと言えます。

 

遺言執行者の選任・解任・辞任

1.遺言執行者の選任

(1)遺言による指定・指定の委託

遺言者は、遺言で、1人または数人の遺言執行者を指定し、またはその指定を第三者に委託することができます(民法1006条1項)。

遺言で遺言執行者として指定された人は、引き受けるかどうかは自由です。
ただし、相続人その他の利害関係人(受遺者や相続債権者等)は、遺言執行者を引き受けるかどうか、相当の期間を定めて催告することができ、期間内に返答しない場合には引き受けた(承諾した)ものとみなされます(民法1008条)。


(2)家庭裁判所による選任

次のような場合には、利害関係人の請求によって、家庭裁判所が遺言執行者を選任します。

(a)遺言執行者がいない場合
(例)
・遺言で指定された人が引き受けを拒絶した
・認知のように、遺言執行者が必要なのに指定されていない

(b)遺言執行者がなくなった場合
・死亡・解任・辞任など


(3)遺言執行者の資格

未成年者または破産者(復権していない者)は、遺言執行者になれません(民法1009条)。

それ以外には特に制限がありません。相続人のうちの一人でも良いです。

ただし、相続人間の関係が良くない場合や、受遺者と相続人とで利害関係が対立する場合には、相続人を遺言執行者に指定するのは避けたほうが無難です。
この場合、第三者として法律専門家(弁護士か司法書士)を遺言執行者に指定すると良いでしょう。

なお、遺言で遺言執行者を指定する場合には、遺言執行者が代理人を選任できるという条項を入れておくと便利です。
なぜかというと、 遺言執行者は遺言者や家庭裁判所から信任されて選ばれるので、誰かに遺言執行者の仕事を代わってほしいと思っても、基本的には許されません。
しかし、やむをえない事情があるか、あるいは遺言で許されていれば、これが可能になるのです(民法1016条)。これは、特に相続人の中の一人を遺言執行者に指定した場合に、非常に役に立ちます。

 


2.遺言執行者の解任

遺言執行者がその任務を怠ったとき、その他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができます。

遺言に不満がある相続人によって勝手に解任されるという心配はありません。

 

3.遺言執行者の辞任

遺言執行者を引き受けたら、病気などの正当な事由があって、さらに家庭裁判所の許可を得ないと辞任することはできません。

 

遺言執行者の地位

遺言執行者は、相続人の代理人とみなされます(民法1015条)。遺言者はすでに亡くなっているので、遺言者の代理人ではないのです。

しかし遺言の執行は、たとえば遺贈のように、相続人と利害が対立することが多いのが現実です。そこで、遺言の執行が円滑に進むように、遺言執行者には次のような強力な権限が与えられています。

・遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を与えられています(民法1012条1項)。
相続人は、遺言執行者による遺言の執行を妨害する一切の行為をすることを禁止されます(民法1013条)。

 

遺言執行者の職務


1.財産目録の作成義務

遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付する義務があります(民法1011条)。
遺言執行者の責任において、専門家(弁護士か司法書士)に目録作成を依頼することも可能です(これは履行補助者という考え方です)。

 

2.相続財産管理・執行

遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します(民法1012条1項)。

(a)相続財産の管理・執行

・遺言の内容が特定遺贈である場合には、預貯金の解約払い戻しや不動産の登記手続き、目的物の引渡し等をする義務があります。

・遺言の執行に関する訴訟では、遺言執行者が訴訟当事者になります。

・相続財産の管理については、民法の委任の規定が準用されており(民法1012条2項)、次のような義務を負い、権利を有します。

  1. 善良な管理者の注意義務もって、遺言執行の事務を処理する義務
  2. 相続人の請求があるときは、いつでも事務処理状況を報告し、事務処理終了後には遅滞なくその経過及び結果を報告する義務
  3. 遺言執行事務にあたって受け取った金銭その他の物を相続人に引き渡す義務、等
  4. 事務処理にあたって立て替えた費用等を請求する権利

 

(b)身分上の行為に関する遺言執行

・子の認知については、就任後10日以内に戸籍届出をします。

・相続人の廃除および廃除の取り消しについては、家庭裁判所に請求します。

 

遺言執行者の報酬

・遺言執行者の報酬は、 遺言中に定めがあれば、それに従います。
・遺言に記載がない場合には、相続人全員と遺言執行者との協議で決定します。
・協議で決まらないときは、相続財産の状況 その他の事情(事案の複雑さや執行に費やした時間・手間など)を考慮して、家庭裁判所に決めてもらうことができます (民法1018条)。

 

 

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2014年7月10日 | カテゴリー :

Q118 会社に遺贈する場合、税金はどうなる?

【Question】

私は、自分が経営している会社に、工場用地を貸しています。

遺言で、この工場用地を会社に遺贈したいと考えていますが、どのような税負担が発生することになるのでしょうか。

 

【Answer】

遺言で会社や法人に財産を遺贈することについて、法律上の制限は何もありません。

ただし、次のような点に注意が必要です。

1)もらった会社・あげた人の両方に、課税される可能性があります。
さらに、同族会社の場合には、他の株主課税が発生することもあります。

2)不動産の名義変更があるので、登記申請時に登録免許税も課せられます。会社への遺贈の場合には、相続人への遺贈の場合と異なり軽減措置がないため、不動産を会社に遺贈した場合の登録免許税は、固定資産税評価額の2%となります。
さらに、不動産を相続人以外の第三者が遺贈によって取得する場合には、地方税として不動産取得税がかかります。
これらのコストは受遺者である会社の負担となりますので、注意が必要です。

3)税金とは別の話になりますが、遺留分を侵害するような遺贈は、受遺者と相続人との間で紛争化する危険があります。

このように、 会社に遺贈すると思わぬ税金がかかることがありますので、遺言作成の際にはくれぐれもご注意を。

 

【Reference】

個人から個人への遺贈の場合には、受遺者(もらった人)に相続税がかかります。

いっぽう、個人から会社・法人への遺贈の場合には、『相続税』こそかかりませんが、次のように課税のトリプルパンチを食らうおそれがあります。

もらった会社法人・・・・・・・法人税・住民税等(時価を益金算入)
あげた人・・・・・・・・・・・譲渡所得税(みなし譲渡所得課税)・住民税
同族会社の場合の他の株主・・・相続税

ただし、もらった法人が国税庁長官の承認を受けた公益法人等である場合には、あげた人に譲渡所得税はかかりません(租税特別措置法40条)。これは一般的には「寄付」と呼ばれます。

 

(1)もらった法人への課税

法人・法人が個人から遺贈を受けた場合、もらった会社・法人のほうでは、そのときの時価受贈益として収益に計上します(法人税法22条2項)。

そして、他の事業収益と通算して、法人税や住民税・事業税の対象になります。もっとも、法人税の繰越欠損金があるなら、受贈益が繰越欠損金以内の金額であれば、法人税は課税されずにすみます。

なお、遺贈の内容が不動産であるならば、もらった会社・法人は、不動産登記時の登録免許税や地方税である不動産取得税を負担しなければなりません。こちらは赤字会社でも必ず発生するコストです。

 

(2)あげた個人への課税

みなし譲渡所得課税』が適用されます。

個人が、土地や建物などの資産を会社・法人に遺贈した場合には、これらの資産は遺贈の効力発生時(相続開始時)の時価で譲渡があったものとみなされ、これらの資産の取得時から相続開始時までの値上がり益に対して所得税が課税されます(所得税法59条1項1号)。これに伴い住民税も課税されます。

もっとも、遺贈した当の本人は死亡していますから、納付の手続きは相続人がすることになります。
具体的には、相続人が被相続人の所得について準確定申告(相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内)を行い、申告期限までに譲渡所得税を納税します(所得税法124条)。この所得税は被相続人の債務となりますから、相続税の計算においては、被相続人の相続財産から控除することができます

譲渡所得税は他の所得とは区分して申告分離課税となり、長期譲渡所得の場合、所得税は15%、住民税は5%となります。

タダで財産をあげたのに税金も支払わなければならないとは、なんとも納得がいかない話ですが、これは法人を利用した税金逃れを防止するために、財産を移転するときには含み益の部分を精算するという税法上の考え方によるものなのです。

時価の2分の1未満の金額で譲渡した場合も同様に、みなし譲渡所得課税が行われます(所得税法59条1項2号、所得税法施行令169条)。

もちろん、みなし譲渡所得課税が適用されるのは『含み益がある財産』ですから、含み益がない財産(含み損がある資産や現金資産)には譲渡所得税はかかりません。

なお、、もらった法人が国税庁長官の承認を受けた公益法人等である場合には、あげた人に譲渡所得税はかかりません(租税特別措置法40条)。いわゆる「寄付」のことです。

 

(3)同族会社の場合、他の株主に課税される

同族会社とは、簡単にいえば、株式の大半を親族によって保有されている会社のことです。

ある株主が同族会社に資産を遺贈すると、株価が上がります。
すると、上がった株価の分だけ、同族会社の他の株主はトクをします。これは見方を変えれば、財産を同族会社にあげた人は、他の株主に対しても、上昇した株価の分だけ財産を遺贈したのと同じことです。

そこで、株価の上昇分に相当する金額について遺贈により取得したものとして、同族会社の他の株主に相続税がかかることがあるのです(相続税法9条、相続税基本通達9-2)。

 
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2014年8月19日 | カテゴリー :