Q135 直系尊属から住宅資金の贈与を受けた場合の非課税特例とは(2015.1~2019.6)

【Question】

住宅資金を親からもらった場合の、贈与税の特例について教えてください。
2015年(平成27年)の税制改正で、住宅資金贈与の非課税枠が3,000万円に拡大されたと聞いたのですが、これは本当ですか。

 

【Answer】

『直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度』については、2019年(平成31年)6月30日まで適用期限が延長され、非課税枠も拡大されました(2015年1月14日閣議決定)。

「最大で」3,000万円が非課税となりますが、それには次の条件を満たす必要があります。
(1)消費税が10%に増税されること
(2)一定の条件を満たす、良質な住宅用家屋の新築・増改築であること

消費税が8%のままであれば、非課税枠は最大で1,500万円(良質な住宅用家屋の場合)です。

 

【Reference】

 

直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税特例とは

居住用家屋を新築・取得したり、居住用家屋の増改築をした場合に、その資金を父母や祖父母などの直系尊属からもらった(贈与された)場合には、一定金額について贈与税が非課税となる特例があります。

この制度は、若手世代へ早期に資産を移転する目的のほか、省エネルギー性・耐震性・バリアフリー性を備えた良質な住宅を供給するという目的があります。そのため、いわゆる高性能住宅については非課税限度額が大きくなっています。

非課税という大きな効果があるいっぽう、この特例を受けるには結構細かい要件がありますので注意が必要です。

また、本特例を受けてもらいうけた住宅取得等資金は、贈与者に相続が発生した場合には特別受益の持戻しの対象になるほか、遺留分減殺請求の算定基礎に含まれるケースが多いと考えられますので、将来の相続争いの原因とならないよう、他の相続人とのバランスに配慮しておくべきでしょう。

 

非課税限度額

直系尊属からの住宅資金贈与非課税特例1直系尊属からの住宅資金贈与非課税特例2

※受贈者(もらった人)1人あたりに適用される額です。複数の人(たとえば父と母の両方)からもらった場合には合計し、合計額が上記の表の額まで非課税です。

 

直系尊属からの住宅資金贈与の非課税特例3

 

適用要件

直系尊属からの住宅取得非課税適用要件

受贈者(もらう人)の要件

(1) まず、次のイ・ロ・ハのどれかに該当する必要があります。

イ 贈与を受けた時に日本国内に住所を有すること。
ロ 贈与を受けた時に日本国内に住所を有しないものの、日本国籍を有し、かつ、受贈者又は贈与者がその贈与前5年以内に日本国内に住所を有したことがあること。
ハ 贈与を受けた時に、日本国内に住所も日本国籍も有しないが、贈与者が日本国内に住所を有していること。

(2) 贈与を受けた時に贈与者の直系卑属であること。
直系卑属とは子や孫などのことですが、子や孫などの配偶者は含まれません。養子縁組していれば含まれます。

(3) 贈与を受けた年の1月1日において20歳以上であること。

(4) 贈与を受けた年の合計所得金額が2,000万円以下であること。

 

住宅取得等資金の要件

住宅取得等資金とは、受贈者(もらった人)が自己の居住の用に供する家屋新築取得したり、自己の居住の用に供している家屋の増改築等の対価に充てるための金銭をいいます。
これらの「居住用家屋の新築・取得又はその増改築」には、次のものも含まれます。

・その家屋の新築若しくは取得又は増改築等とともにするその家屋の敷地の用に供される土地や借地権などの取得(建売やマンションの敷地のことです)

・住宅用の家屋の新築(住宅取得等資金の贈与を受けた日の属する年の翌年3月15日までに行われたものに限ります。)に先行してするその敷地の用に供される土地や借地権などの取得(敷地を先行取得した場合です。)

注意!
受贈者は建物を取得すること、つまり『家屋』に受贈者の持分があることが条件となります。たとえば、妻の父から資金贈与を受けて妻名義で土地を取得し、夫がローンを組んで注文住宅を建てた場合には、建物に妻の持分がないので本特例を受けることができません。この場合には夫の住宅ローンを減らして妻の自己資金の一部を建物の請負代金に充当すれば、妻の持分を建物に入れることができます。

ただし、もらった人の一定の親族など、受贈者と特別の関係がある人との請負契約等によって新築や増改築等をする場合や、このような人から取得する場合には、この特例の適用を受けることはできません。受贈者の一定の親族など受贈者と特別の関係がある人とは、次のような人をいいます。

(1) 受贈者の配偶者及び直系血族
(2) 受贈者の親族((1)以外の人)で受贈者と生計を一にしている人
(3) 受贈者と内縁関係にある者及びその者の親族でその者と生計を一にしている人
(4) (1)から(3)に掲げる者以外の者人で受贈者から受ける金銭等によって生計を維持している人、およびその人の親族でその人と生計を一にしている人

 

居住用家屋の新築・取得、および増改築の要件

(1)  居住用の家屋の要件
居住用の家屋とは、次のイ・ロ・ハのすべての要件を満たす日本国内にある家屋をいいます。
(なお、居住用の家屋が2つ以上ある場合には、受贈者が主として居住用としている1つの家屋だけです。)

イ 家屋の登記簿上の床面積(区分所有の場合には、その区分所有する部分の床面積)が50㎡以上240㎡以下であること。

ロ 購入する家屋が中古の場合は、家屋の構造によって次のような制限があります。(a) 耐火建築物である家屋の場合は、その家屋の取得の日以前25年以内に建築されたものであること。
(b) 耐火建築物以外の家屋の場合は、その家屋の取得の日以前20年以内に建築されたものであること。ただし、地震に対する安全性に係る基準に適合するものとして、一定の「耐震基準適合証明書」、「住宅性能評価書の写し」又は既存住宅売買瑕疵担保責任保険契約が締結されていることを証する書類により証明されたものについては、建築年数の制限はありません。

ハ 床面積の2分の1以上に相当する部分が居住専用であること。

(2)  増改築等の要件
特例の対象となる増改築等とは、受贈者が日本国内に所有し、かつ、自己の居住の用に供している家屋について行われる増築、改築、大規模の修繕、大規模の模様替その他の工事のうち一定のもので次のイ・ロ・ハのすべての要件を満たすものをいいます。

イ 増改築等の工事に要した費用が100万円以上であること。なお居住用部分の工事費が全体の工事費の2分の1以上でなければなりません。

ロ 増改築等後の家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分が居住専用に供されること。

ハ 増改築等後の家屋の登記簿上の床面積(区分所有の場合には、その区分所有する部分の床面積)が50㎡以上240㎡以下であること。

 

 

居住要件

新築、取得又は増改築等のどの場合であっても、住宅取得等資金の取得をした日の属する年の翌年3月15日までに、資金受贈者(もらった人)が住宅用家屋等を居住していることか、または、住宅用家屋等に居住することが確実であると見込まれることが要件となります。
ただし、転勤のようなやむをえない事情がある場合には、家族などの同一生計者がその住宅に居住していれば大丈夫です。

 

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2015年2月5日 | カテゴリー :

Q131 相続時精算課税の住宅取得等資金特例とは(改正版 2015.1~2019.6)

【Question】

2014年の11月に、一人息子が住宅を購入します。
住宅取得資金ならば、2014年は500万円まで無税で贈与できる(一般住宅の場合)と聞いています。

もう少し贈与金額を多くしたいのですが、増やすと贈与税は避けれられませんか?

 

【Answer】

「2014年に500万円まで贈与税が無税」というのは、『直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税特例』のことだと思います。

非課税限度額を超えた場合には、暦年課税制度との併用が可能なので、500万円+110万円=610万円まで非課税です。

また、相続時精算課税制度と併用することもできるので、この場合には最大で500万円+2500万円=3000万円までは、贈与税がかからずに贈与できます(2500万円については相続税で精算)。贈与者の年齢制限もありません。

 

【Reference】

(「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税特例」は、2014年まで段階的に縮小され、終了する予定でした。しかし、経済界の後押しを受けた国土交通省からの強い要望もあって、2019年6月30日までの期間延長のほか、非課税限度額の大幅拡大、適用対象の見直しなどがすでに固まっています(平成27年税制改正大綱、2015年1月14日閣議決定)。
この「非課税特例」については、後日、詳細をお知らせいたします。)

 

ここでは「非課税特例」と併用が可能なもうひとつの特例、『相続時精算課税制度の住宅取得等資金の特例』に触れます。

贈与者に年齢制限がない

相続時精算課税制度には、贈与者(あげる人)に年齢制限がある通常のものと、年齢制限がない『住宅取得資金等の特例』との2つがあります。

通常、相続時精算課税制度を利用するには、贈与者たる親は贈与した年の1月1日現在で65歳以上(2015年からは60歳以上)であることが必要です。

しかし、子が住宅を建てるような場合に親から資金贈与を受けるならば、あげる親の側は何歳でもかまわないという特例が設けられています。2019年6月30日までの期限延長が、ほぼ固まっています(平成27年税制改正大綱、2015年1月14日閣議決定)。
相続時精算課税制度の適用要件

なお、建物のほうにも床面積などの要件があります。詳しくは税務署にご確認ください。
(上記の税制改正大綱で、適用対象となる増改築等の範囲に「一定の省エネ改修工事、バリアフリー改修工事」「給排水管又は雨水の浸入を防止する部分に係る工事」が加わりました。)

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2015年1月23日 | カテゴリー :

Q133 配偶者に住み慣れた家を贈与するには

【Question】

妻から、長年住み慣れたこの家にこれからも住み続けたいので、自分の名義にしてもらえないかと相談されました。

私には、別れた元妻との間に子がいます。
そのため、妻が相続でもめるのは嫌だという気持ちは、よくわかります。

妻の願いをかなえるには、どのような手続きをすればいいのでしょうか。

 

【Answer】

すぐに名義を変えたいならば、配偶者にご自宅を生前贈与し、その登記手続きを行うのが基本です。

生前贈与は非常に税率の高い贈与税がかかるのですが、配偶者との婚姻期間が20年以上(内縁期間は除く)あるならば、居住用不動産を配偶者に贈与しても、相続税評価額(土地ならば路線価等)で2,000万円まで控除することができ、その年の基礎控除額110万円とあわせて2,110万円相当まで、贈与税がかからずに贈与することができます。これを贈与税の配偶者控除といいます。

ただし、不動産取得税・登録免許税はかかります。

2,110万円を超える自宅を生前贈与する場合は、超えた額に対してだけ贈与税がかかります。たとえば2,500万円の自宅を贈与する場合、2,500万円-2,110万円=390万円が課税対象となり、これに対する贈与税は53万円です(390万円×税率20%-速算表の控除額25万円。計算方法はQ116)。
自宅全部を生前贈与するのではなく、一部を贈与することもできますから、2,500万円のうち2,110万円相当だけを非課税で生前贈与して、夫婦共有にする方法もあります。

贈与税の配偶者控除を利用するには、贈与を受けた人が翌年2月1日~3月15日までに贈与税の申告をしなければなりません。たとえ贈与税が非課税になる場合でも、必ず申告する必要があります

また、本特例は同じ配偶者との間では1回限りで、贈与した家が2,000万円未満でも、あまった枠を翌年以降に繰り越すことはできません。

婚姻期間が20年未満の場合は、すぐに名義を移すと多額の贈与税がかかります。次善の策として、公正証書遺言等を検討しましょう。

なお、将来の相続争いが予想される場合、「特別受益」や「遺留分」に対する配慮も欠かせません(Q125)。

 

 

【Reference】

 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除

たとえ相手が配偶者であっても、贈与税の基礎控除額(年間110万円)を超える生前贈与をすると、通常は贈与税がかかります。

しかし、居住用不動産、または居住用不動産を取得するための金銭を、配偶者に生前贈与した場合には、一定の条件下で最高2,000万円(贈与された居住用不動産等の価格が上限)までを控除することができます。これが贈与税の配偶者控除です。基礎控除額110万円とあわせて2,110万円相当までは、贈与税がかかることなく配偶者に贈与できます。

夫から妻でも、妻から夫でも、どちらでも適用を受けることができます。
この特例を利用できるのは、同一配偶者からは1回限りです。

「相続税の配偶者控除」とは関係がありません。混同しないようにしてください。

 

【適用要件】
(1) 夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われたこと
(戸籍上の婚姻期間を指します。内縁の期間は含みません)

(2) 配偶者から贈与された財産が、自分が住むための国内の居住用不動産であること、または居住用不動産を取得するための金銭であること

(3) 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した国内の居住用不動産または贈与を受けた金銭で取得した国内の居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること

(4) 同じ配偶者からの贈与について、過去にこの特例の適用を受けていないこと(注)

(5) 一定の書類を添付の上、贈与税の申告をすること

(注) 同じ配偶者からの贈与については一生に一度しか適用を受けることができません。

 

【注意点】

(1)3年以内に亡くなっても、相続税の対象にならない

生前贈与の後、3年以内に贈与者が亡くなった場合には、通常は贈与財産の価額が相続財産に加算され、贈与税ではなく相続税の対象になります(Q052)。
しかし、この特例を利用した贈与については、その後3年以内に贈与者が亡くなっても、相続財産に加算されません

つまり、相続税評価で2,000万円以下ならば、贈与税も相続税も課税されずに移転できます

 

(2)コストがかかる

たしかに相続税評価額で2,000万円まで贈与税はかからないのですが、次の税金はかかります。

不動産取得税(地方税。納付書で納める)
・登録免許税(登記の際にかかる)

既に所有している居住用不動産を贈与するような場合には、不動産取得税も登録免許税も特例がないため、結構な額の税金を納めること(数十万円になることもある)になります。

なお、既存不動産を贈与するのではなく、資金を贈与して新築住宅を購入すれば(夫婦共有でも良い)、これらの税金についても特例があるほか、マイホーム購入に認められている各種の税制特例も活用することができます。

 

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2014年12月5日 | カテゴリー :

Q129 二人以上から生前贈与を受けた場合の非課税枠は

【Question】

父と母の二人からそれぞれ100万円ずつ、生前贈与を受けました。

110万円に達しないので、贈与税の申告は必要ないですよね?

 

【Answer】

二人以上から通常の生前贈与を受けた場合、それらの「合計額」が年間で110万円を超えていれば、贈与税の申告・納税が必要です。

父母それぞれから100万円ずつもらったら、200万円から基礎控除110万円を差し引いた残り90万円に対して、贈与税がかかります。

 

【Reference】

二人以上から生前贈与を受けた場合(通常の暦年贈与)

生前贈与を受けると、通常は『暦年課税制度』によって、毎年110万円までの生前贈与については非課税です。

それでは、二人以上の人から生前贈与を受けたら、それぞれ年間110万円ずつまで、非課税になるのでしょうか?

結論から行けば、贈与税の非課税枠は、暦年課税制度では、贈与者(あげた人)ごとに計算するのではなく、受贈者(もらった人)ごとに合計して計算します。これは、贈与者が父母であろうと他人であろうと、関係ありません。

 
二人以上から贈与を受けた場合の非課税枠(暦年課税)

 
ただし、扶養義務者が生活費・教育費を負担してくれた場合は、そもそも非課税ですから、合計すると年間で110万円を超えていても、贈与税の申告は必要ありません(参考 Q123)。

また、冠婚葬祭の祝儀・香典等も贈与税の非課税財産とされており、受け取った額が合計で110万円を超えていても、それが常識の範囲内であれば、贈与税の申告は不要です。

 

二人以上から生前贈与を受けた場合(相続時精算課税制度)

相続時精算課税制度の適用を受けると、税金の支払いを相続の時まで先送りすることができます(Q127)。

相続時精算課税制度は、父母の双方について利用することも、どちらか片方だけ利用して残る一方は暦年課税制度のまま残すことも、どちらも自由に選択できます(Q128)。

相続時精算課税制度では、『あげた人ごと』に、生涯で2,500万円まで贈与税が非課税となります。
二人以上から贈与を受けた場合でも、合算して2,500万円ではありません。なぜなら、『あげた人』にそれぞれ相続が発生すれば、相続税はそれぞれ別に計算し、個別に贈与税を精算することになるからです。

 

二人以上から贈与を受けた場合の非課税枠(相続時精算課税)

 

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2014年10月14日 | カテゴリー :

Q128 相続時精算課税制度と暦年課税制度による贈与は併用できるの?

【Question】

父から生前贈与を受けたので、相続時精算課税制度を利用しました。

相続時精算課税制度を利用したら、その後は暦年課税制度による110万円の贈与税控除を利用できなくなる、と聞いていたのですが、父ではなく母から、暦年課税制度による生前贈与を受けることはかまわないのでしょうか。

 

【Answer】

結論から言えば、問題ありません。

お父様からの生前贈与について相続時精算課税制度の適用を受けた後は、再びお父様から生前贈与を受けても、暦年課税制度による110万円の基礎控除を利用することはできません。しかし、贈与者が違えば大丈夫です。

 

【Reference】

生前贈与について、一度でも相続時精算課税制度の適用を受けた後は、同じ贈与者から再び生前贈与を受けた場合に、暦年課税制度による110万円の基礎控除を利用することはできません。

同一贈与者では、相続時精算課税制度と暦年課税制度の併用はできない

この場合どうなるかというと、次のようになります。

(1)相続時精算課税制度を最初に適用した生前贈与から、累計して2,500万円に達するまでの生前贈与については、毎年、贈与税が非課税となる(要申告)。

(2)累計して2,500万円を超えたら、そこから一律で20%の贈与税が課される。110万円を控除することはできない
(ここで納めた贈与税は、贈与者が亡くなった時に、相続税額から控除する。剰余があれば還付される)

 

相続時精算課税制度を利用すると、同じ贈与者からの生前贈与については、暦年課税制度に戻ることはできないのです。
この点は非常に重要です。

 

ただし、相続時精算課税制度と暦年課税制度が併用できないのは、『贈与者が同じ』場合です。贈与者が違えば、問題なく併用できます。
贈与者が違えば、相続時精算課税制度と暦年課税制度は併用できる

 

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2014年10月6日 | カテゴリー :

Q127 息子に家を贈与するには(相続時精算課税制度の概要と要件)

【Question】

3年前、ファミリー向けの分譲マンションを、一部屋購入しました。
このマンションを息子の名義にするには、どうすればいいでしょうか。

 

【Answer】

手続きとしては、息子さんとの間で贈与契約を締結した上で、生前贈与による所有権移転登記手続きをします。
司法書士に依頼すれば、贈与契約書の作成から登記手続きまで代行してもらえます。

問題は、生前贈与をした場合にかかる『贈与税』です。税率が高いからです。

息子さんへの贈与の場合、一定の条件を満たせば、一定限度まで贈与税がかからずに生前贈与できる制度があります。
これが 『相続時精算課税制度』 というものです。

ただし、相続時精算課税制度を利用して生前贈与を行った場合には、あなたが亡くなって息子さんたちが財産を相続する時に、本制度の適用を受けた財産の価額を、相続財産の価額に加えて、『相続税額』を計算します(贈与税よりも相続税のほうが、非課税枠が大きく税率も低い)。

相続時精算課税制度によって生前贈与を行うということは、言い方を変えれば、納税を相続の時まで先送りするということなのです。

 

 

【Reference】

相続時精算課税制度とは?

我が国では高齢化が進んでおり、相続による現役世代への資産移転がなかなか進んでいません。
そこで、ご年配の方から現役世代への生前贈与を行いやすくするために、贈与税の負担を軽くする制度が設けられました。
これが『相続時精算課税制度』です(相続税法21条の9~)。

 

相続時精算課税制度には、以下のようなメリットがあります。
(1)一定の要件を満たせば、2,500万円まで贈与税は非課税
(2)2,500万円を超えても、税率は20%で一律

このように贈与税は大幅に軽減されますが、残念ながら、無条件に非課税となるわけではありません。
どういうことかと言うと、贈与者が亡くなったときに、『相続税』のほうで精算させられるのです。

つまり、税金の支払いを相続の時まで先送りしているだけ、なのです。
ですから、『相続税対策』を目的として、本制度による生前贈与をしても、効果はあまり期待できません。

しかし、生前に、特定の財産を、子のうちの一人に確実に承継させることができるという点では、非常に有効な制度です。

 

なお、次の(1)と(2)を合計して、相続税額を計算します(すでに支払っている贈与税があればそれを差し引く)。
(1)相続が発生(贈与者の死亡)した時点での相続財産の価額
(2)『
相続時精算課税制度』を利用して贈与された財産の価額

 

 

相続時精算課税制度を利用できるのは?

相続時精算課税制度の利用要件

通常、相続時精算課税制度を利用するには、贈与者のほうの親は、贈与した年の1月1日現在で65歳以上(2015年からは60歳以上)であることが必要です(上の表の「原則」の列)。
満年齢でこの年齢に達したからと言って、すぐに本制度を利用することはできません。利用できるのは翌年からです

ただし、子が住宅を建てる場合の資金援助として本制度を利用する場合には、年齢制限がありません。こちらは、記事をあらためて説明します(Q131)。

 

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2014年9月29日 | カテゴリー :

Q125 生前贈与は相続対策になるか(贈与税の配偶者控除を例として)

【Question】

今のうちに妻に家を生前贈与しておけば、私が死亡した際の『相続対策』になりますか?

 

 

【Answer】

まず、ご質問の主旨が「『争続』対策になるか」という意味であるならば、次のような回答になります。

「妻に家を生前贈与して登記まで済ませておけば、将来相続が発生して揉めたとしても、妻は家を確保できるのではないか」
・・・このようにお考えだとすれば、確かに何もしないよりは、生前贈与しておいたほうが、はるかに安全です。

なにより、奥様にとって「家が自分の名義になった」という安心感は、何物にも代えがたいものがあります。

ただし、奥様に贈与した自宅不動産は特別受益財産にあたり、遺留分減殺請求の対象となるため、できるだけ他の相続人の遺留分を侵害しないようにしなければいけません。つまり、遺留分を有する他の相続人に対しても、別途、生前贈与や遺贈等によって遺留分に相当する財産を残しておくように、配慮しておく必要があるのです。
そうしておかないと、他の相続人が遺留分減殺請求をしてきた場合に、奥様が自己資金で遺留分相当額を支払うとか(価額賠償)、不動産自体を共有で登記し直すとか、厄介な問題を引き起こしかねないのです。

『生前贈与』も、遺留分に対する配慮が必要であると言う点では、相続対策の定番である『遺言』とあまり変わりないのです

また、このケースでは、奥様の特別受益について持ち戻し計算を免除するならば、「持ち戻し免除の意思表示」もしておくべきです。

 

次に、ご質問の主旨が「(妻に対する家の生前贈与が)相続『税』対策になるか」という意味であるならば、ケースバイケースではあるものの、どちらかといえば対策にならない可能性が高いと言えるでしょう。

『夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除』を利用して、税務上有利に生前贈与すること自体は可能です。

しかし、生前贈与することなくそのまま相続した場合でも、相続税のほうの配偶者控除が非常に大きく、自宅については小規模宅地特例の適用を受けられるケースも多いので、配偶者には相続税がかからないケースが多いと思います。相続税がそもそも0円であるなら、コストをかけて対策をする意味がありません。
また、配偶者が亡くなって二次相続になると、今度は配偶者控除が無いので、自宅不動産が相続財産になることでかえって相続税が大きくなるかもしれません。

もっとも、奥様のほうが先にお亡くなりになって奥様から子へ家が相続されれば、先に家を贈与しておいた分だけあなたの財産が減るので、トータルで相続税を軽減できる可能性があります(結果論ですが)。また、将来は相続税のほうの配偶者控除が縮小されるという可能性もあるので、相続税対策にならないとも言い切れません。

 

 

【Reference】

 妻や子への生前贈与は特別受益。遺留分にも注意!

配偶者や子に家(不動産)を生前贈与する行為は、あらかじめ遺産を前渡ししたものと考えることができ、特別受益にあたると考えられます。したがって、贈与者が死亡した後の遺産分割協議では、受贈者(家の生前贈与を受けた人)はすでに遺産を前渡しされたものとして、他の遺産に対する取り分が少なくなります。このような扱いを避けたい場合には、遺言等で「持ち戻し免除の意思表示」をしておく必要があります。

さらに、遺留分の問題があります。家の生前贈与によって他の相続人の遺留分が侵害されている場合には、遺留分減殺請求の対象になります。特別受益にあたる贈与財産は遺留分算定の基礎財産に含まれ、減殺の対象となるからです(Q074、平成10年3月24日最高裁判決)。

以上を総合すると、遺産を巡って争いになる可能性が高い場合には、他の相続人の遺留分を侵害することが確実な生前贈与や遺贈をすることは、かえって紛争の火種となるので極力避けるべきです。もちろん、贈与した家以外にも十分な財産があり、これを分け与えることによって他の相続人の遺留分を侵害しないならば良いのですが。

 

夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除

たとえ相手が配偶者であっても、贈与税の基礎控除額(年間110万円)を超える生前贈与をすると、通常は贈与税がかかります。

しかし、居住用不動産、または居住用不動産を取得するための金銭を、配偶者に生前贈与した場合には、一定の条件下で最高2,000万円(贈与された居住用不動産等の価格が上限)までを控除することができます。これが贈与税の配偶者控除です。基礎控除額110万円とあわせて2,110万円相当までは、贈与税がかかることなく配偶者に贈与できます。

夫から妻でも、妻から夫でも、どちらでも適用を受けることができます。
この特例を利用できるのは、同一配偶者からは1回限りです。

「相続税の配偶者控除」とは関係がありません。混同しないようにしてください。

 

【適用要件】 
(1) 夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われたこと
(戸籍上の婚姻期間を指します。内縁の期間は含みません)

(2) 配偶者から贈与された財産が、自分が住むための国内の居住用不動産であること、または居住用不動産を取得するための金銭であること

(3) 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した国内の居住用不動産または贈与を受けた金銭で取得した国内の居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること

(4) 同じ配偶者からの贈与について、過去にこの特例の適用を受けていないこと(注)

(5) 一定の書類を添付の上、贈与税の申告をすること

(注) 同じ配偶者からの贈与については一生に一度しか適用を受けることができません。

 

【注意点】 

(1)3年以内に亡くなっても、相続税の対象にならない

生前贈与の後、3年以内に贈与者が亡くなった場合には、通常は贈与財産の価額が相続財産に加算され、贈与税ではなく相続税の対象になります(Q052)。
しかし、この特例を利用した贈与については、その後3年以内に贈与者が亡くなっても、相続財産に加算されません

つまり、相続税評価で2,000万円以下ならば、贈与税も相続税も課税されずに移転できます

 

(2)コストがかかる

たしかに相続税評価額で2,000万円まで贈与税はかからないのですが、次の税金はかかります。

不動産取得税(地方税。納付書で納める)
・登録免許税(登記の際にかかる)

既に所有している居住用不動産を贈与するような場合には、不動産取得税も登録免許税も特例がないため、結構な額の税金を納めること(数十万円)になります。

なお、既存不動産を贈与するのではなく、資金を贈与して新築住宅を購入すれば(夫婦共有でも良い)、これらの税金についても特例があるほか、マイホーム購入に認められている各種の税制特例も活用することができます。
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2014年9月17日 | カテゴリー :

Q123 孫の学費を負担するときの注意点は

【Question】

孫が大学へ入学することになりました。将来の相続税対策として、入学金や授業料などの学費は私が負担したいと思いますが、法律や税金の面でどのようなところに注意が必要ですか?

なお、入学初年度だけで、大学への納入額は150万円程度かかる見込みです。

 

【Answer】

まず、祖父母と孫のような直系血族は、相互に扶養の義務があり、お互いに扶養義務者とされています(民法877条1項)。
扶養義務に優先順位はないので、お孫さんの両親がご健在であっても、祖父母は孫に対する扶養義務があります。

扶養義務者である祖父母がお孫さんの学費を負担する行為は、通常、「扶養義務の履行」と考えられています(ただし、お孫さん自身に相当の財力があるような場合は、扶養の必要がないので除外されます)。

あくまでも義務を履行するだけですから、「特別受益」(Q066)とか「遺留分」(Q072,Q073など)というような、生前贈与にありがちな、あなたに万一のことが生じた場合に起こりうる法律上の問題については、頭を痛める必要はありません。

ただし、法律的な問題と言うのとは少し違いますが、ある特定のお孫さん(たとえば、あなたの長男の子)だけを特別扱いしてしまうと、他のお孫さん(たとえば、あなたの二男の子)との間に不公平感が生じるおそれがあります。孫同士、あるいは長男一家と二男一家との関係を壊さないためにも、あまり不公平にならないようご配慮ください。

 

次に税金のほうですが、こちらもベースとなる考え方は同じで、扶養義務者相互間において生活費または教育費に充てるために贈与を受けた財産のうち「通常必要と認められるもの」については贈与税は非課税とされています(相続税法21条の3第1項第2号)。
初年度納付金が150万円ということは、贈与税の基礎控除110万円を超えますが、扶養の範囲ならばそもそも非課税なので関係ありません。

ただし、非課税となるのは、必要な都度、直接、贈与した財産に限られます数年分を一括してまとめて渡すと、贈与税の課税対象となるおそれがあります。

このような課税を回避する確実な方法としては、

(1)入学金・授業料などの大学納入金は、毎年毎期、あなたから大学へ直接振り込み送金する

か、または

(2)「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度」を利用する(1000万円非課税、期限あり)

と良いでしょう。

 

【Reference】

「扶養義務の履行」と「単なる贈与」

経済的に困窮している人に対して、一定の親族関係にある人は、これを助ける義務があります。これが扶養義務です。

たとえば、親が成人している子供にお金を与えた場合、そのお金がなければ子が生活に困ってしまうのであれば、それは親が果たすべき扶養義務を履行した、ということになります。子が何歳であっても、親は子を扶養する義務があるからです(反対に、子も親を扶養する義務がある)。

反対に、成人している子が生活に困らない程度の資産を持っているならば、それは単純な『贈与』であり、扶養義務とは関係ありません。

どちらも「お金を与える」という行為そのものは同じわけですが、子の生活が苦しいのでそれを助けるために与えたお金ならばそれは扶養義務を履行したものとして、そうでなければ単なる贈与として、法律の面でも税金の面でも違いがあるのです。

 

法律面で例をあげると、親が死亡した場合の遺産相続において、これが『特別受益』にあたるかどうかという点で、結論が180度違ってきます。

親から子へ生計の資本として財産を与えたとき、それが遺産の前渡しという意思が推測されるようなものであれば、親が死亡したときの遺産相続では、他の相続人とのバランスをとる必要があります。これが特別受益という仕組みです。

しかし、親が子に財産を与えた行為が、親が当然果たすべき扶養義務を履行したものにすぎないなら、遺産相続のときに特別受益として考慮することはありません。そこに「遺産の前渡し」という親の意思を見出すことができないからです。

 

また、税金面でも、扶養義務者から生活費・教育費としてもらい受けた財産のうち通常必要と認められるものについては、贈与税は課税されないものとされています(ただし、注意点があるので後で説明します)。

 

扶養義務を負う人とは

扶養義務を負うのは、第1に、夫婦です。
民法752条で『夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない』と定められています。
『扶養』に関する規定とは別のところに定められていますが、広い意味では扶養に含まれます。

第2に、直系血族及び兄弟姉妹です。
『直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある』という規定が民法877条1項にあります。
親子はもちろん、祖父母と孫とは血のつながりのある直系血族ですから、「お互いに」扶養義務があるわけです。
離婚した夫婦の間に扶養義務はありませんが、夫婦間の子供は直系血族ですから、離婚してもこの条文によって子を扶養する義務があります。
なお、子が未成年であれば、親権者にはより強い監護義務(民法820条)があり、これも広い意味では扶養義務を含んでいます(だから離婚すると、子の「養育費」が問題になるわけです)。

第3に、家庭裁判所が扶養義務を負わせた三親等内の親族です。
民法877条2項では『家庭裁判所は、特別の事情があるときは・・・三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる』と定めています。
この場合には血族か親族かは問いませんので、おじおばとおいめい、配偶者のきょうだいなどについても、家庭裁判所の審判があれば扶養義務が発生します。

 

夫婦間や未成熟の子供に対しては、扶養義務者は扶養能力がある限り、扶養義務を負います。
いっぽう、その他の血族・親族に対しては、これを扶養することは例外的だと言えます。そのため、扶養義務の程度はずっと軽く、自己の生活を損なわない程度に、余力の範囲で初めて義務が生じます。もちろん、扶養を受ける人が自分自身の財力・労力では生活することが困難な、要扶養者であることが前提です。

 

なお、同一の要扶養者に対して扶養義務者が何人かいる場合、扶養の順序に決まりはありません。原則として当事者の協議にゆだねられています(民法878条)。今回のご質問者の場合、子に父母がいたとしても、学資に関して祖父母が扶養義務を履行してもかまわないわけです。

 

大学の学資は扶養の範囲なのか?

それでは、義務教育はともかくとして、大学のような高等教育の学費まで、「扶養」の範囲と言えるのでしょうか?

親の遺産相続に関して、「きょうだいは親に大学の学費を出してもらっているが、自分は早く就職したので出してもらっていない。これは遺産分割で考慮されないのか」という類の相談を受けることが少なくありません。いわゆる特別受益の問題です。

これは、「考慮されない」という結論が一般的です(異論はあります)。
大学の学費などの教育費は、被相続人の資産や社会的地位を考慮して扶養の範囲内といえるならば、特別受益には当たらないと考えられています。現在では大学進学は珍しい事ではないので、大学に通わせたことに「遺産の前渡し」という意味合いを含むとは考えにくいのです。

なお、ご質問者の場合は「祖父が孫の学費を負担する」という話なので、通常は特別受益の問題にはなりません。
孫の両親が健在である限り、孫は祖父母の直接の相続人ではないので、「遺産の前渡し」ということがあり得ないからです(ただし例外もあり、公平の見地から、相続人の子に対する利益の供与をその親である相続人の特別受益として考慮した家事審判例もあります。神戸家尼崎支審昭和47年12月28日家月25巻8号65頁、等)

 

税金の面でも、扶養義務者が被扶養者(子や孫)の学資等を負担する場合、被扶養者の教育上通常必要と認められる学資・教材費・文房具費等の「教育費」については、義務教育費に限らず非課税とする扱いです。

 

贈与税の課税対象となる場合

先に述べたように、扶養義務者から生活費・教育費としてもらい受けた財産のうち「通常必要と認められるもの」については、贈与税は課税されないものとされています。

先に述べたように扶養の順序に決まりはないので、祖父母が孫の学費を負担する場合であっても、それが「通常必要と認められるもの」であれば、非課税です。

この「通常必要と認められる」ものには、被扶養者の需要と扶養者の資力その他一切の事情を勘案して社会通念上適当と認められる範囲の財産であれば全て含まれるとされているので、たとえ医学部の超高額な授業料であっても、それが扶養義務の履行である限り、贈与税は課税されないのです。

ただし、税のほうでは、扶養義務者の間の生活費・教育費について贈与税が非課税となるのは、必要な都度直接、生活費や教育費として贈与を受けた財産に限るとされています。

そして、扶養義務者間で生活費・教育費の数年間分を一括して贈与した場合には、その財産が生活費・教育費に充てられずに預貯金となっていたり、株式や自動車の購入費用などに充てられていたりすると、生活費や教育費に充てられなかった部分については課税対象になってしまいます。

最近、このように数年分の教育資金を一括して贈与する場合にも、一定額を非課税とする制度が作られました。それが、「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度」です。資産のある祖父母にとって相続税対策になることから、人気を博しているようです。教育資金以外への適用拡大も検討されていると聞きます。

ただしこの制度は、教育費として使い切れなかった部分については課税対象になります。また、制度利用にあたっては、銀行等での手続きも必要です。

この制度を利用しなくても、入学金や授業料を、大学に直接その都度振り込んだり、毎月の生活費を仕送りとして送金してあげれば、基本的には扶養の範囲として全額非課税になるわけです。そうしたほうがお孫さんに感謝されるような気がするのですが、いかがでしょうか。

 

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2014年9月9日 | カテゴリー :

Q122 小さい孫に贈与するには?

【Question】

孫が一人だけおり、今年8歳になります。
この孫の将来のために、ある程度まとまった額の財産を今のうちに渡しておきたいと、以前から考えていました。

教育資金に関しては期限付きで非課税制度ができたようですが、相続時精算課税制度の対象が平成27年から孫にも拡大されると聞いて、この制度の利用も考えています。

そこで質問ですが、
(1)小さい孫に財産を贈与する場合、誰と契約をすればいいのでしょうか。
(2)孫の親である私の息子は浪費家なので、孫に贈与した財産を管理させたくありません。どうすれば良いですか。

 

【Answer】

お孫さんが現在、『未成年者』であることを前提に、お答えします。

(1)について

贈与は『契約』である以上、受贈者(もらう人)の承諾を要します。しかし。受贈者が8歳では内容を理解できませんから、契約を締結することができず、財産管理義務(民法824、827条)を負う親権者との間で、契約を締結する必要があります。

なお、親権者が父母である場合、親権は父母が共同で行使するのが原則であり、父母の双方が未成年者を代理して契約します。

 

(2)について

第三者が無償で未成年の子に財産を与える場合その財産について、親権者である父または母の財産管理を禁止できます。この場合、財産管理者を指定することが可能です。

 

 

【Reference】

未成年者を当事者とする契約は、親権者が代理する

贈与に限ったことではありませんが、未成年者が契約の当事者になる場合、財産管理者であり法定代理権を有する親権者が代わりに行います(民法824条)。

なお、親権者については、民法818条に規定されています。

【参考 民法818条 赤字は筆者】

  1. 成年に達しない子は、父母の親権に服する。
  2. 子が養子であるときは、養親の親権に服する。
  3. 親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。

 

第三者が未成年者に与えた財産は、両親による管理を禁止できる

第三者が無償で未成年者の子に財産を与える場合、親権を行う父または母にその贈与財産の管理をさせないという意思を表示すれば、贈与財産について、親権者による財産管理自体を禁止することができます(民法830条)。

この場合、信頼できる人を代わりの財産管理者に指定することができます。弁護士や司法書士でもかまいません。また、父母のうち父だけ財産の管理を禁止し、母だけを単独の管理者に指定することも可能です(それで実効性があればですが)。

管理者の指定は贈与契約の際にしても、後からしてもかまいません。管理者を指定しなければ、家庭裁判所に選任してもらいます。

なお財産管理者に贈与者自身を指定することもできます。なんだか「代打、俺」を思い出しますが(なつかしい)、これはやめておいたほうが無難です。
なぜかと言うと、生前贈与の場合、財産の管理権を贈与者から切り離し、これを受贈者に完全にゆだねてしまわないと、税務上では贈与の成立を否認されてしまい、相続税対策としては失敗するおそれがあるからです(Q121)。相続時精算課税制度を利用せずに通常の暦年課税制度で行く場合には、これは絶対に避けるべきです。

 

【補足】

もしも「孫へ贈与した事実は息子に知られたくない」「息子が契約に同意しない」というのであれば、次善の策として、遺言を書いてお孫さんに遺贈(特定遺贈)することになるでしょう。遺贈ならば『契約』ではなく『単独行為』なので、親権者の承諾は不要だからです。

この場合の遺言書は、遺言執行者を指定した公正証書とし、信頼できる人に遺言公正証書謄本を預けておくとよいでしょう。

さらに、上記の民法830条の規定は遺贈の場合にも適用があるので、親権者の財産管理を禁止した上で財産管理者を明示しておけば、遺言の効力発生時(相続開始時)に受贈者が成年に達していなくても安全確実です。

 

【参考 民法830条】

  1. 無償で子に財産を与える第三者が、親権を行う父又は母にこれを管理させない意思を表示したときは、その財産は、父又は母の管理に属しないものとする。
  2. 前項の財産につき父母が共に管理権を有しない場合において、第三者が管理者を指定しなかったときは、家庭裁判所は、子、その親族又は検察官の請求によって、その管理者を選任する。
  3. 第三者が管理者を指定したときであっても、その管理者の権限が消滅し、又はこれを改任する必要がある場合において、第三者が更に管理者を指定しないときも、前項と同様とする。
  4. 第27条から第29条までの規定は、前二項の場合について準用する。

 

 

(注)本ページで取り上げた民法の規定は、受贈者・受遺者が『未成年者』である場合のみ適用があります。

 

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2014年9月6日 | カテゴリー :

Q121 生前贈与をする場合の注意点は?

【Question】

相続税対策として現金を生前贈与する場合、毎年少しずつ実行することによって大きな節税効果があると聞きました。

そこで、三人の孫(二十歳は超えています。)に、それぞれ毎年100万円程度の現金を、5年間、生前贈与しようと思います。どのような点に注意すれば間違いないでしょうか。

 

【Answer】

何は無くとも贈与契約書

まず、暦年課税制度による贈与の場合、贈与契約書を、毎年、贈与の都度作成し、贈与者(あげる人)・受贈者(もらう人)の両方が署名捺印することが重要です。

贈与契約は書面を作らなくても法律的には有効に成立するので、特にご親族の間で金銭を贈与する場合に、書類を作成しないケースも多々あります。
しかし、書類をきちんと取り交わしていないと、そのお金がもらったものなのか、それとも借りたものなのかが明確ではなくなる等々、相続のときに法律的な争いを招いたり、税務トラブルを生じたりする原因になります。
「親しき中にも礼儀あり」ではありませんが、相手が身近な人であるからこそ、きちんと契約書を交わすことがトラブル防止につながります。

贈与契約書を作成するにあたってはさまざまな注意点がありますが、あなたのように贈与税の暦年課税制度を利用して、毎年110万円の基礎控除枠をフル活用する場合には、毎年その都度、贈与契約書を取り交わすようにしてください。

何故かと言うと、
「毎年100万円を贈与するという約束をして、それを5年間繰り返す(A)」
のと、
「100万円を5年間毎年贈与する約束を、最初の年にまとめてする(B)」というのとでは、少しニュアンスが違うのです。

Bのパターンのような贈与契約を『定期贈与契約』と言いまして、1年ごとに贈与を受けたと考えるのではなく、『定期金に関する権利』(5年間にわたり毎年100万円ずつもらう権利)を、最初の年に一度に贈与されたものとみなされてしまう可能性があり、初年度にドンと贈与税が課されられるおそれがあります(有期定期金の評価についてはQ060)。

そこで、数年にわたる贈与契約を締結する場合には、Aパターンのように、毎年その都度、契約書を作成しておくのが安全です。

(実質的に定期贈与を内容とする契約が締結された場合に、税務上、本当にこのような扱いがなされているのかどうか確認はしていませんが、このような課税が実際になされたとすれば、個人的には非常に違和感があります)

 

また、契約書に署名することを面倒に感じる方が多いのですが、贈与契約があなたとお孫さんとの間で間違いなく成立したということを証明するため、署名だけは必ず自分で署名するようにし、できれば実印も押印しましょう。これもトラブル防止のためです。

あげる側のあなたばかりでなく、もらう側のお孫さんも署名してください。
贈与は「契約」の一つと考えられていますから、あなたの「あげます」という意思とお孫さんの「もらいます」という意思とが一致しなければ成立しません。あげる側の一方的な意思だけでは贈与とはならず、もらう側の了解が必須です。

なお、余計なお世話ですが、契約書には200円の収入印紙と消印をお忘れなく。そして、無くさないように大事に保管しておきましょう。

 

贈与の証拠を残す!

次に、贈与があったという事実を明確にするために、金銭を贈与する場合には、契約書を作るだけではなく、贈与者の通帳から受贈者の通帳に送金する等、誰が見ても疑いないような証拠を残します。
これは、贈与があったという事実ばかりではなく、それがいつ実行されたのかという証拠になるので、税務当局対策としても相続対策としても、非常に重要です。現金を手渡しして領収書を受け取るだけでは、領収書の日付などは後からどうにでもなりますから、証拠力としては弱いのです。

なお、贈与財産が現金でなく、不動産のように登記・登録を要する財産である場合には、ただちに登記・登録をします。税務上の考え方では、登記・登録をしたときに贈与があったものとして扱われるからです(後記Reference)。たとえ契約書に確定日付を取っていてもダメです。

 

財産は受贈者に管理させる

三番目に、贈与財産については完全に受贈者が管理するようにします。贈与財産をお孫さんの口座に送金しても、その通帳や届出印をあなたが管理していたのでは、贈与があったと認めさせることはできません。このような預金は「孫名義だがあなたが所有する財産」と見られてしまい(名義預金)、相続税対策としての贈与は失敗してしまいます。

 

基礎控除額を超えたら贈与税の申告・納税

最後に、暦年課税制度による生前贈与では、贈与財産の合計が年110万円を超える場合には、受贈者であるお孫さんが贈与税の申告をして納税する必要がありますので、贈与者であるあなたの側からお孫さんに注意を促しましょう。
合計が110万円以下であれば、もちろん申告は不要です。

なお、贈与税は原則として受贈者が支払うべきものですから(受贈者が無資力の場合を除く)、贈与税をあなたが払ってあげると、これも贈与とみなされる可能性があります。

 

【Reference】

『贈与』に対する考え方は、法律と税務では異なる

意外に思われるかもしれませんが、『生前贈与』という契約について、法律上の考え方と税務当局の考え方には大きな隔たりがあります。

たとえば、「生前贈与契約は、いつ効力を生じるか」という点を挙げることができます。

法律(民法)的には、原則として、贈与契約が成立したときに効力が生じると考えられています(民法176条)。
契約書を交わすことは必要条件ではないので、口約束でも、約束したその時に贈与の効力が生じます。これが法律の考え方です。

ところが、税務の世界ではこうではありません。

税務上、生前贈与がいつ効力を発生するかを見てみると、次のようになります(相続税基本通達1の3・1の4共-8、同1の3・1の4共-11)。

(1)書面による贈与  :贈与契約の効力が発生した時
(2)書面によらない贈与:履行の時
(3)所有権が登記・登録の対象となる財産:登記・登録の時(特に反証がない場合)

どうしてこうなっているのかというと、簡単にいえば、「贈与税は高い税率の累進課税だから、もらった人に贈与税を払ってもらうには、現実に贈与財産を手にした後でないとおかしいよね。財産をもらう前に高い税金払えとは言えないなぁ」という考え方が、税を徴収する側にあるからなのです。

このように、生前贈与では、法律の考え方と税務上の考え方が一致するとは限りません。

生前贈与は、特別受益や遺留分という形で相続争いの原因となることがあるので、法律的に問題が生じないように予防しておかなければなりません、
いっぽう、生前贈与の成否は贈与税や相続税にダイレクトに影響してくるので、こちらに対する気配りも欠かすことができません。
そして、これらを同時並行で行わなければならないところに、生前贈与の難しさがあります。

法律の上でも税金の上でも、失敗するとダメージが大きいのが生前贈与なのです。なるべくなら、税務と法務の専門家の助言を受け、適切に実行するようにお願い致します。

 

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