Q058 生前贈与なのに相続税?

【Question】

相続税対策になるからという理由で、父は私に、贈与税の基礎控除額以内で毎年財産を贈与してきました。
ところが、父に相続が起きた場合に、生前贈与された財産も相続税がかかることがあると聞きました。これはどのような意味ですか?

 

【Answer】

相続税対策をする上で、連年贈与の活用はとても有効です。

ただし、相続開始前3年以内の贈与については、贈与税を払っていても払っていなくても、相続税の課税対象として加算することになっています。逆にいえば、3年より前の生前贈与は相続税の対象に加算しません。

従いまして、連年贈与で相続税対策をするならば、早ければ早いほど効果が大きくなります。

 

【Reference】

死亡前3年以内に贈与されていた財産は、贈与税でなく相続税

被相続人が亡くなった時点ですでに生前贈与されていた財産は、当然、もらいうけた人の財産であって故人の遺産(相続財産)ではありません。

ところが、亡くなる前の3年以内に被相続人が贈与した財産については、”相続税”がかかる場合があります。 どのような場合かと言うと、生前贈与を受けた人が、贈与した人の相続人(包括受遺者を含む)でもある場合です。

「贈与税の間違いじゃないの?」と思われるかもしれません。ごもっともです。
どうして生前贈与なのに、贈与税ではなく相続税がかかるのでしょうか?

もしも相続税という制度だけがあって贈与税という制度がなければ、相続税を逃れるためにはバンバン生前贈与してしまえばいいことになります。 このような相続税逃れを防ぐために、贈与税という仕組みを用意し、あえて相続税より高い税率にしているのです。
しかし何でもかんでも高い贈与税がかかるのでは納税者もたまりませんから、毎年110万円までの贈与ならば、贈与税は非課税とされています(暦年課税)。ここがポイントです。

もしも、余命わずかと宣告された後に、この毎年110万円の贈与非課税枠をフル活用して駆け込み的に生前贈与すれば、それによって遺産が少なくなりますから、意図的に相続税を減らすことができてしまいます。 反対に、高い贈与税を払って財産をもらいうけたのに、その後まもなく贈与者が亡くなってしまったならば、「亡くなるまで待って相続でもらっていれば、税金が生前贈与よりも安かったのに・・・」ということで不公平感が強くなってしまいます。

そこで、相続人となる人が、被相続人が亡くなる前の3年以内に遺産とは別に生前贈与を受けていた場合には、贈与税を払っているかどうかに関わりなく、すべて相続税の対象にすることにしました。 また、もし生前贈与を受けた時に納付した贈与税があればこれを相続税から差し引くことができるようにし、さらに納付済みの贈与税が相続税額よりも大きければ差額を還付することができるようにして、不公平を解消することにしたのです。

ただし、一つ例外があります。
居住用不動産にかかる贈与税の配偶者控除』を受けた財産の場合には、あげた人(贈与者)がその後3年以内に亡くなった場合でも相続税の対象にはなりません
この制度は、20年間連れ添った配偶者に居住用財産を贈与する場合には、一定額まで無税とすることで内助の功に報いるための制度です。そのため、贈与者がその後まもなく亡くなったからといって「やっぱり相続税を払ってください」とは、さすがの税務署も言えないわけです。

 

生前贈与の相続税加算をするときの注意点

死亡前3年以内の贈与財産を相続税の対象に加える場合、いくつか注意点があります。

(1)被相続人からの贈与財産のみが相続税の対象になる(相続税法19条)

被相続人以外からの贈与は対象になりません。
たとえば、毎年、父と母の双方から贈与を受けていた人がいて、ある時、父が亡くなった場合には、亡くなる前3年以内に父から受けていた贈与だけが対象になり、母からの贈与は対象になりません。

 

(2)対象になるのは『贈与の時における価額』(相続税基本通達19-1)

相続税に贈与財産を加算する場合には、相続発生時ではなく贈与時の時価を加算します。
たとえば、贈与時には価額が500万円だったが、相続時には600万円に値上がりしていた贈与財産については、相続税の対象として加算するのはあくまでも贈与時の500万円です。

 

(3)「相続開始前3年以内」とは、亡くなった日から3年前の同じ日以降を指す(相続税基本通達19-2)

たとえば、平成26年1月30日に亡くなった場合、平成23年1月30日以降の贈与が対象になります。

 

(4)被相続人から相続や遺贈で相続財産やみなし相続財産(死亡保険金等)を受け取らなかった者への贈与は、対象にしない(相続税基本通達19-3)

たとえば、父が子に贈与し、その後3年以内に父が亡くなった場合でも、子が家庭裁判所で相続放棄の手続きをするなどしてまったく相続財産を受け取らなければ、相続税の対象にはなりません。贈与税だけで完結してしまえばいい話だからです。

 

相続時精算課税制度によって贈与された財産は相続税の対象

相続時精算課税制度の届出をしていた贈与財産は、そもそも相続税で贈与税を精算することを予定していたものですので、相続税の課税対象になります。
ただし、亡くなった日の時価ではなく、生前贈与した時の時価で評価します。

 

 

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2014年2月3日 | カテゴリー :

Q060 定期金に関する権利はどうやって評価するか

【Question】

故人が民間の個人年金を受け取っており、その年金受給権を遺族が引き継いだような場合、この権利は『定期金に関する権利』として財産評価すると聞きました。これはどのような意味ですか?

 

【Answer】

個人年金保険や収入保障保険などは、基本的には、保険金を年金形式で受け取ります。
いっぽう、一般の死亡保険金や満期保険金は一時金で受け取るのが原則ですが、年金形式で受け取ることができる特約があらかじめ用意されていることがあります。

年金のように、ある期間にわたって定期的に金銭等の給付を受ける権利のことを『定期金に関する権利』といいます(注1)。

ところで、相続税というものは、相続発生時(被相続人の死亡時)のすべての相続財産を金銭で評価し、その評価額をもとに計算します。

『定期金に関する権利』は、相続発生時にもらえるお金ではありませんが、将来にわたって継続的にお金をもらえる権利であり、財産的な価値があるものです。 そのため、このような年金形式の保険金についても、相続が発生した時点ではいくらの価値があるのかということを計算して評価額を求めます。
このような『定期金に関する権利』については、その評価方法が相続税法に定められています。

なお、『遺族基礎年金』などの公的な遺族年金は相続財産ではなく(Q014)、相続税もかかりませんので、財産としては評価しません。

 

【Reference】

定期金のタイプごとの、定期金に関する権利の評価方法は次の通りです(相続税法24、25条)。

 

第1  定期金給付事由が発生しているもの(例:年金支給開始の60歳になった)

 

(1)有期定期金の場合

10年とか15年といった形で、期間が決まっている定期金のことです。
代表的なのは「確定年金」で、被保険者の生死にかかわらず一定期間は年金を受け取れる商品です。

下記a~cのうち、一番多い金額が評価額になります。
a 解約返戻金の金額
b 一時金の金額(定期金の代わりに一時金で受け取ることができる場合)
c 1 年あたりの平均額×残存期間に応ずる予定利率による複利年金原価率
(複利年金原価率は、ネットで検索すれば見つかります)

 

(2)無期定期金の場合

永久に定期金の給付を受けられるもの。現実にはほとんど存在しません。

下記a~cのうち、一番多い金額が評価額になります。
a 解約返戻金の金額
b 一時金の金額(定期金の代わりに一時金で受け取ることができる場合)
c 1 年あたりの平均額×予定利率

 

(3)終身定期金の場合

亡くなるまでの間、定期金の給付を受けられるもの。いわゆる『終身年金』の保険商品。

下記a~cのうち、一番多い金額が評価額になります。
a 解約返戻金の金額
b 一時金の金額(定期金の代わりに一時金で受け取ることができる場合)
c 1 年あたりの平均額×平均余命に応ずる予定利率による複利年金原価率
(平均余命は、厚生労働省HPの完全生命表を利用。複利年金原価率は、ネットで検索すれば見つかります)

相続の場面では、被保険者=被相続人の場合は、保証期間がない終身定期金は評価の対象になりません(相続人は何も受け取れないので)。

 

(4)有期定期金だが、被保険者が中途で亡くなった後は支給されないもの

契約者がAさんで「被保険者であるBさんが60歳になったら10年間年金を払います。しかしBさんが亡くなった後は支給しません」という契約です。仮にAさんが亡くなってもBさんが生きている限り期間中は支給されます。

代表的な商品が「有期年金」で、被保険者の生死にかかわらず支給されるのが「確定年金」とは区別します。

この場合、(1)有期定期金の場合(3)終身定期金の場合との両方で評価し、少ない金額のほうが評価額になります。
亡くなってしまえば10年もらえないので、少ないほうで評価します。

なお、 相続の場面では、被保険者≠被相続人の場合にだけ評価の対象になります(被保険者=被相続人であれば、相続人は何ももらえないので評価の対象になりません)。

 

(5)終身定期金だが、被保険者が亡くなった後でも一定期間に限り継続して支給されるもの

いわゆる『保証期間付き終身年金』のことです。
たとえば、契約者がAさんで「Aさんが生存中はAさんに年金を払います。ただし支払開始日より一定期間内にAさんが亡くなった場合には、その一定期間のうち残存期間については、Aさんの遺族(継続受取人)に年金を払い続けます」というような契約です。もちろん被保険者≠被相続人であることもあります(例:夫が妻にかけるケース)

この場合、(1)有期定期金の場合(3)終身定期金の場合との両方で評価し、多い金額のほうが評価額になります。

 

 

第2 定期金給付事由が発生していないもの(例:年金支給開始前に死亡)

この場合には、基本的に解約返戻金をもって評価します。

 

 

おまけ:なぜ定期金に関する権利の財産評価は難しいのか

余談ですが、定期金に関する権利の財産評価は、どうしてこうも複雑なのでしょうか?
興味ない方は、以下は余談ですので無視して下さい

たとえば、あなたが、ある人から「今すぐ1000万円もらうのと、今後10年にわたって毎年100万円もらうのとどっちがいい?」と聞かれたら、「今すぐ!」と答えるのではないでしょうか?

希望すれば今すぐ1,000万円もらえるのですから、わざわざもらうのに10年かけるならば、そこそこの金利でも上乗せしてもらわなければ割があいません。

反対に、渡すほうの立場から考えると、10年かけて総額1,000万円を渡せばいいのに、あえて今すぐ全額を渡さなければならないとしたら、1,000万円全額ではなく多少割り引いてもらわないと釣り合いません。1,000万円全部をすぐに渡してしまったら、今後10年間に受け取ることができる運用利益がなくなってしまうからです。

ですから、「今後10年にわたって総額で1,000万円受け取ることができる権利」というものは、現在の時点では1,000万円の財産であると評価することはできず、現在の価値はもっと低いと考えなければおかしいことになります。

定期金に関する権利の中でも代表的な、『年金形式で受け取る保険金』についてもこれと同じことが言えます。だからこそ、年金形式よりも一括受け取りのほうが、受取総額が少なくなるわけです。

では、定期金に関する権利の『現在の』価値をどうやって計算するのでしょうか?
数学的にこれを計算することは不可能ではありませんが、その計算式は複雑です。

さいわい、一般人がそんな計算をしなくても、保険会社が計算する解約返戻金や一時金というものは、要はこの理屈をもとに計算されていますから、これらを活用して財産評価をすれば良いとされているわけです。

ただし、商品によって解約返戻金がなかったり(収入保障保険は基本的に掛け捨て)、給付期間が決まっていたり決まっていなかったりするので、どうしても定期金に関する権利の評価は難しくなってしまうのです。

定期金(おまけ)

(注1)
「定期金」とは、年金のことだけを指す言葉ではありません
たとえば、AさんがBさんに「今後20年間、毎年1月1日に100万円をあげる」という『定期贈与契約』を締結すると、Bさんが持っている権利もまた『定期金に関する権利』です。
(ちなみに、
契約した年に、有期定期金に関する権利の贈与を受けたものとして、贈与税が課税されてしまいます)

とはいえ、このような気前のいい話が、世の中にごろごろ転がっているはずがありません。 ほとんどの場合、もらうお金は、もらう前に自分で積み立てているケースが大半です。
たとえば、保険料と言う形で一定期間積み立て、一定の時期が来たら年金として受け取る『個人年金保険』が代表的です。

そのため、相続などの場面で『定期金』といえば、ほとんどの場合、このような個人年金や生命保険金等を年金形式で受け取る場合の権利のことを指します。

 

 

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2014年2月6日 | カテゴリー :

Q061 保険金を年金形式で受給した場合の税金(収入保障保険を例として)

【Question】

父が亡くなり、父が加入していた収入保障保険の死亡保険金を受け取ることになりました(保険料負担者=被保険者:父)。

保険会社の説明では、収入保障保険の保険金は保険期間が満了するまで年金形式で受け取るのが通常ですが、一括受け取りにすることもでき、ただし一括受け取りの場合には、年金受け取りの場合よりも受取総額が少なくなるということでした。

年金受け取りと一括受け取りと、どちらが得なのでしょうか。

 

【Answer】

収入保障保険も生命保険契約のひとつに違いはありません。
あなたの場合は、保険料負担者=被保険者:父、保険金受取人:子、ということですから、受け取った保険金は相続税の対象となり、一定の非課税枠があります(Q054)。これは年金受け取りでも一括受け取りでも、違いはありません。

収入保障保険の保険金を一括で受け取る場合、課税については相続税だけで済みますが、受け取ることができる保険金総額は年金形式の場合よりも少なくなります。

反対に、収入保障保険の保険金を年金形式で受け取る場合、将来受け取ることになる年金については相続開始時点での年金受給権評価に対し相続税がかかる他、毎年受け取る年金は雑所得となり、一定のルールに従って所得税がかかります。雑所得は総合課税ですから、受取人の住民税や国民健康保険料等に影響が及びます。
いっぽう、受け取ることができる保険金総額は、一括受け取りの場合よりも増えます(利息相当額が上乗せされるので)。

一括で受け取るか年金で受け取るかについては、どちらが得かはケース・バイ・ケースです。 また、どちらがより望ましいかという点についても、お考え方は人それぞれだと思います。 ただし一般的には、受取人の方が他にも所得があって所得税率が高い等、受取人の所得を増やすことが望ましくない場合には、一括受け取りを選択することが有利にはなります。

 

【Reference】

 

収入保障保険の特徴

収入保障保険は、毎年、保障金額が自動的に減少していくタイプの生命保険商品です。

一般の家庭では、子供が小さいうちは万一に備えて大きな保障が必要ですが、子供が成長していくにつれ、保障金額は少なくても済むようになっていきます。

生命保険の代表的な商品である定期保険だと、保険期間中は保障金額が変わりません。定期保険では、保障金額をライフステージにあわせて引き下げるには、そのための手続きが必要です。 その点で、ライフステージにあわせて保障金額が自動的に下がっていく収入保障保険は、とても合理的な保険であるといえます。

収入保障保険は定期保険の進化型であると言われ、原則として掛け捨てである点など、定期保険との共通点が多くあります。

しかし保険金を受け取る際には、大きく違いが出ます。 定期保険では原則として一括受け取りであり、特約がある場合など保険会社によっては例外的に年金受け取りにすることができます。
これに対し収入保障保険では、家庭の収入減を補うという意味が強いため年金受け取りが基本です。もっとも受取人が望めば一括受け取りにすることも可能です。

 

収入保障保険の死亡保険金を一括受け取りにした場合の課税

収入保障保険の保険金を一括で受給した場合は、一般の生命保険とまったく変わりありませんので、受給した一時金に対し、契約形態によって相続税または所得税(一時所得)もしくは贈与税がかかります。詳しくは「Q054 死亡保険金にかかる税とは?」をご覧ください。

 

収入保障保険の死亡保険金を年金受け取りにした場合の課税

死亡時の課税と年金受給時の課税を別々に考えます。

第1 死亡時の課税

(1)契約者と被保険者が同一人の場合

相続税がかかる、という点は一括受け取りの場合と同じ。
受取人が相続人であれば「500万円×法定相続人の数」を限度として非課税となる点も同じ。
ただし、年金として受け取る保険金については、死亡時における年金受給権評価額Q060 定期金に関する権利の評価方法)で評価します。

 

(2)契約者と受取人が同一人の場合(被保険者が違う)

被保険者の死亡によって保険金支払い事由が発生しただけで、年金受給権に関する権利は誰にも移動しませんから、被保険者の死亡時には何も課税はありません。

 

(3)契約者・被保険者・受取人がそれぞれ別人の場合

贈与税がかかる、という点は一括受け取りの場合と同じ。
ただし、年金として受け取る保険金については、死亡時における年金受給権評価額Q060 定期金に関する権利の評価方法)で評価します。

 

第2 年金受給時の課税

雑所得として所得税の対象になります。
(注:国民年金・厚生年金・共済年金など公的年金の遺族年金は非課税です)

以前は年金形式で受け取った保険金について、各年の年金収入全額が所得税の課税対象でした。
しかし、平成22年7月6日の最高裁で「相続税の課税対象となった部分については、所得税の課税対象とならない」という判決が出て大きなニュースとなり、これを受けて平成22年10月から国税庁も取り扱いを変更しました。すなわち、相続税または贈与税と、所得税は「二重に課税の対象としない」ということになったのです。

この取り扱い変更により、年金形式で受け取る保険金については、所得税の課税部分と非課税部分に振り分けたうえで、課税部分の所得金額だけが所得税・住民税の課税対象となります。

年金受け取りの1年目は全額非課税とし、2年目以降は課税部分が階段状に増加していく方法によって計算しますが、具体的には国税庁のホームページをご参照ください(国税庁 相続等により取得した年金受給権に係る生命保険契約等に基づく年金の課税関係)。

 

一般の死亡保険金を年金受け取りにする場合の注意

定期保険や終身保険については、ここまで述べてきた収入保障保険と異なり、一括受け取りが原則です。
もしも契約者が生前に年金受け取り特約を申し込んでおけば、課税形態は上記の収入保障保険と同じです。

しかし、死亡日以降になってから受取人側から年金受け取りにしたいと申し出た場合には、死亡日にいったん死亡保険金が支給されたのと同じ扱いになり、「死亡保険金額」に対して相続税または贈与税が課される(定期金による評価減を受けることができない)ので、ご注意ください。
年金受給時にも雑所得として所得税の対象になりますが、所得税を計算する際の必要経費は、死亡保険金をもとに計算します。

 

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2014年2月10日 | カテゴリー :

Q062 個人年金の受給開始後に、被保険者や受取人が死亡した場合の課税は?

【Question】

個人年金保険の年金を受給していた夫が亡くなりました。

65歳から年金支給が開始される10年確定年金で、3年分を受け取った時点で死亡しました。
保険契約者=被保険者=年金受取人はいずれも夫でした。なお、継続受取人は妻である私に指定されています。

この年金についての税金はどうなるのでしょうか。
また、年金形式で受け取る場合と一時金で受け取る場合とで、違いはあるのでしょうか?

 

【Answer】

10年確定年金とのことですので、あなたはあと7年間分の年金を受け取る権利を得たことになります。

まず、継続受取人の指定があれば、民法上は、一般の死亡保険と同じく本来の相続財産には含まれず、遺産分割の対象にならないと考えられます。

 

次に税金の点ですが、年金形式で受け取るか一時金で受け取るかによって違いがあります。

年金で受け取る場合には、最初にご主人が亡くなった時点で、「年金受給権の評価額」が相続財産とみなされて、他の相続財産とともに相続税の対象になります(Q060 定期金に関する権利の評価方法)。ただし、死亡保険金にある「500万円×法定相続人」の非課税枠は適用されません
さらに、年金形式で受け取ると、毎年受け取る年金の一部が雑所得として所得税の課税対象になります。雑所得は総合課税ですから、受取人の住民税や国民健康保険料等に影響が及びます。
いっぽう、受け取ることができる総額は、一時金受け取りの場合よりも増えます(利息相当額が上乗せされるので)。

これに対し一時金で受け取った場合には、受け取った一時金が相続財産とみなされて、他の相続財産とともに相続税の対象になります。こちらの場合も、死亡保険金にある「500万円×法定相続人」の非課税枠は適用されません。
課税については相続税だけで完結しますが、受け取ることができる総額は年金形式の場合よりも少なくなります。

 

 

【Reference】

 

個人年金保険の特徴

個人年金保険は、公的年金に加えて老後の生活資金を確保するために利用され、被保険者が契約時に定めた年齢に到達すると年金を受け取ることができる生命保険商品です。

運用の成果にかかわらず支給される「基本年金」に加え、支給開始前の積立配当金によって増額される「増額年金」を受け取ります。支給開始後にも配当金がある場合には、「増加年金」を受け取ることができる場合もあります。

個人年金保険には、保険金を受け取ることができる期間によって、以下のようなものがあります。

(a)終身年金

年金受給開始後、被保険者が生存している限り受給できる年金。
被保険者が死亡した場合には契約は終了し、遺族等に対し支給されるものは無い。

(b)保証期間付き終身年金

基本的には終身年金fだが、年金受給開始後の一定期間は、被保険者が死亡しても年金を受け取れることを保証した年金。
被保険者が死亡した場合、契約で定めていた継続受取人が年金形式または一時金で受け取るものが多い。

(c)確定年金

被保険者の生死にかかわらず、一定期間受給できる年金。
被保険者が死亡した場合、契約で定めていた継続受取人が年金形式または一時金で受け取るものが多い。

(d)有期年金

年金受給開始後、被保険者が生存していることを条件に、一定期間受給できる年金。
被保険者が死亡した場合には契約は終了し、遺族等に対し支給されるものは無い。

(e)保証期間付き有期年金

基本的には有期年金だが、年金受給開始後の一定期間は、被保険者が死亡しても年金を受け取れることを保証した年金。
被保険者が死亡した場合、契約で定めていた継続受取人が年金形式または一時金で受け取るものが多い。

 

(派生商品として「変額個人年金保険」という商品もあり、これは保険会社が保険金を株式や債券などで運用し、その運用結果によって年金額が決まる商品です。投資リスクがあり、保険料も通常は一時払いになっています。)

ここから、代表的な事例で課税関係を見ていきます。
贈与税がかかってくるようなパターンもありますが、事例としては少ないと思いますので割愛しています。

 

 

第1 『契約者=被保険者=受取人』が死亡した場合の課税関係

年金保険と相続1

今回のご質問のケースです。夫Aが契約者となって保険料を負担し、被保険者である夫Aが受給年齢に達したため年金を受給していたところ、亡くなってしまったという場合です。

この場合、上記(a)~(e)のうち、(a)終身保険と(d)有期保険は、被保険者である夫Aの死亡によって終了してしまいます。
そこで、課税の問題が生じるのは(b)保証期間付き終身年金、(c)確定年金、(e)保証期間付き有期年金で、期間が完了していないものが課税の対象になります。

 

1.年金形式で受け取る場合

(1)相続時

妻Bが残りの期間にわたって年金を受給することができます。
「妻Bが残りの期間、年金を受け取る権利」、すなわち夫Aが亡くなった時点での「年金受給権の評価額」が相続財産とみなされて、他の相続財産とともに相続税の対象になります(相続税法3条1項5号)。
(b)(c)(e)のどの商品でも残りの期間は確定していますので、Q060 定期金に関する権利の評価方法のうち、第1(1)の「有期定期金の場合」で評価します。

ただし、死亡保険金にある「500万円×法定相続人」の非課税枠は適用されません(相続税法3条1項1号の死亡保険金は、同法12条1項5号によって一定額が非課税とされている。これに対し個人年金保険の年金受給権は同法3条1項5号の定期金に関する権利であり、これに対応する非課税規定は存在しない)。

 

(2)年金受給時

雑所得として所得税の対象になります。
(注:国民年金・厚生年金・共済年金など公的年金の遺族年金は非課税です)

以前は年金形式で受け取った保険金について、各年の年金収入全額が所得税の課税対象でした。 しかし、平成22年7月6日の最高裁で「相続税の課税対象となった部分については、所得税の課税対象とならない」という判決が出て大きなニュースとなり、これを受けて平成22年10月から国税庁も取り扱いを変更しました。すなわち、相続税または贈与税と、所得税は「二重に課税の対象としない」ということになったのです。

この取り扱い変更により、年金形式で受け取る保険金については、所得税の課税部分と非課税部分に振り分けたうえで、課税部分の所得金額だけが所得税・住民税の課税対象となります。

年金受け取りの1年目は全額非課税とし、2年目以降は課税部分が階段状に増加していく方法によって計算しますが、具体的には国税庁のホームページをご参照ください(国税庁 相続等により取得した年金受給権に係る生命保険契約等に基づく年金の課税関係)。

 

2.一時金で受け取る場合

一時金で受け取った場合には、受け取った一時金が相続財産とみなされて、他の相続財産とともに相続税の対象になります(相続税法3条1項5号)。こちらの場合も、死亡保険金にある「500万円×法定相続人」の非課税枠は適用されません。

 

 

第2 『契約者=受取人(被保険者が異なる)』で、被保険者が死亡したとき

年金保険と相続2

こちらも、(a)終身保険と(d)有期保険は、被保険者である妻Bの死亡によって終了してしまいます。
前記第1と同様に、課税の問題が生じるのは(b)保証期間付き終身年金、(c)確定年金、(e)保証期間付き有期年金で、期間が完了していないものが課税の対象になります。

 

1.年金形式で受け取る場合

(1)相続時

妻Bが亡くなっても、夫Aの年金受給に関する権利は誰にも移動しませんから、被保険者Bの死亡時には何も課税はありません。

(2)年金受給時

雑所得として所得税の対象になります (注:国民年金・厚生年金・共済年金など公的年金の遺族年金は非課税です).

 

2.一時金で受け取る場合

一時金で受け取った場合、一時所得として所得税の対象になります。

 

 

第3 『契約者=受取人(被保険者が異なる)』で、受取人が死亡したとき

年金保険と相続3

たとえばAさんが「妻Bさんが65歳になったら年金を受け取れる」という個人年金保険に加入していて、それをAさんが受給していたところ、Aさんが亡くなってしまい、妻Bさんが継続受取人になっていたというケースです。

被保険者である妻のBさんは健在ですから、支給期間中ならば、(a)~(e)すべてのタイプにおいて課税の問題が生じます。

 

1.年金形式で受け取る場合

(1)相続時

妻Bが引き続き年金を受給することができます。
「妻Bが年金を受け取る権利」、すなわち夫Aが亡くなった時点での「年金受給権の評価額」が相続財産とみなされて、他の相続財産とともに相続税の対象になります(相続税法3条1項5号)。Q060 定期金に関する権利の評価方法のうち、各商品にあてはまる評価方法で評価します。

ただし、死亡保険金にある「500万円×法定相続人」の非課税枠は適用されません(相続税法3条1項1号の死亡保険金は、同法12条1項5号によって一定額が非課税とされている。これに対し個人年金保険の年金受給権は同法3条1項5号の定期金に関する権利であり、これに対応する非課税規定は存在しない)。

 

(2)年金受給時

雑所得として所得税の対象になります。
(注:国民年金・厚生年金・共済年金など公的年金の遺族年金は非課税です)

以前は年金形式で受け取った保険金について、各年の年金収入全額が所得税の課税対象でした。 しかし、平成22年7月6日の最高裁で「相続税の課税対象となった部分については、所得税の課税対象とならない」という判決が出て大きなニュースとなり、これを受けて平成22年10月から国税庁も取り扱いを変更しました。すなわち、相続税または贈与税と、所得税は「二重に課税の対象としない」ということになったのです。

この取り扱い変更により、年金形式で受け取る保険金については、所得税の課税部分と非課税部分に振り分けたうえで、課税部分の所得金額だけが所得税・住民税の課税対象となります。

年金受け取りの1年目は全額非課税とし、2年目以降は課税部分が階段状に増加していく方法によって計算しますが、具体的には国税庁のホームページをご参照ください(国税庁 相続等により取得した年金受給権に係る生命保険契約等に基づく年金の課税関係)。

 

2.一時金で受け取る場合

一時金で受け取った場合には、受け取った一時金が相続財産とみなされて、他の相続財産とともに相続税の対象になります(相続税法3条1項5号)。こちらの場合も、死亡保険金にある「500万円×法定相続人」の非課税枠は適用されません。

 

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2014年2月12日 | カテゴリー :

Q063 退職金を年金形式で受給中に、相続が発生したら?

【Question】

夫が会社を退職するときに、退職金2,000万円のうち半分の1,000万円を一時金で受けとり、残りの半分の1,000万円を10年間の年金形式で受けとることにしていました。

夫はこの年金を5年間受けとりましたが、先日死亡しました。
残りの5年分の年金は遺族である私が受け取ることになりますが、これは相続税の対象になるのでしょうか。
なお、一時金は退職所得として、受け取り済みの年金は雑所得として、それぞれ申告済みです。

 

【Answer】

あなたが受け取ることになる退職年金は『契約に基づかない定期金に関する権利』であり、みなし相続財産として相続税の課税対象になります(相続税法3条1項6号)。

なお、今後あなたに支給される退職年金は、所得税が非課税になります(所得税法9条1項3号ロ、所得税基本通達9-2)。

 

【Reference】

退職年金も相続税の課税対象

企業年金制度のある会社では、退職金の一部を年金形式にして受け取ることができます(いわゆる『退職年金』)。
また、公務員の共済年金の職域部分は、現行では公的年金たる共済年金の一角として支給されていますが、今後は職域部分が廃止され『年金払い退職給付』への移行が予定されており、こちらは退職金の一部を年金形式で受け取るという点で企業年金と似た制度になっていくようです。

さて、このような退職年金を受け取っている人が亡くなった場合、遺族(継続受取人)がこれを引き継ぐことになります。
退職年金を受給する権利は財産的価値がありますから、みなし相続財産として相続税の課税対象になるのです。

 

退職年金は定期金に関する権利として評価される

退職年金を受けている人が死亡したら、故人の相続人等が退職年金を継続して受けることとなり、その年金を受給する権利は、その継続受取人となった遺族が相続又は遺贈により取得したものとみなされます(相続税基本通達3-29、相続税法3条1項6号『契約に基づかない定期金に関する権利』)。

そして、この退職年金を受給する権利は、『定期金に関する権利』として評価します。
具体的には、その評価方法はQ060 定期金に関する権利の評価方法となります。今回のご相談では有期定期金として評価することになります。

このようにして定期金として評価した額と、その他の相続財産の価額を合算した結果、相続税の基礎控除を上回る場合には相続税申告が必要になります。

なお、死亡退職金にある「500万円×法定相続人」の非課税枠は適用されませんのでご注意ください。

 

遺族に支給される退職年金は雑所得にはならない

なお、遺族に支給される退職年金は、雑所得とならず、所得税が非課税になります(所得税法9条1項3号ロ、所得税基本通達9-2)。

 

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2014年2月14日 | カテゴリー :

Q064 相続財産から控除できる債務とは

【Question】

亡くなった父が死亡した年の所得について、先日、準確定申告を済ませて所得税を納付しました。
現在、父の遺産について遺産分割協議の準備をしているのですが、どうやら相続税の申告が必要になりそうです。

準確定申告によって納めた所得税が、生前の父の収入に対して納めるべきものであるとすれば、納めた所得税額は相続税の課税対象から控除されるような気がするのですが、どうなのでしょうか。

 

【Answer】

そのとおりです。準確定申告によって納付した所得税額は、相続財産から控除できます。

 

【Reference】

第1 相続財産から控除できる債務とは

1.原則

借入金や未払い金などのことを『債務』といいます。
日本の相続制度では、プラスの相続財産だけでなく、債務のようなマイナスの相続財産も相続人に承継されます(Q015)。

そうなると、相続税を計算するうえでも、その点を考慮しなければ釣り合わなくなります。
そこで、相続人等が相続や遺贈で取得した財産の価額から、負担する債務の額を控除することになっています。これが『債務控除』です。

一般的な相続の場合、相続財産から控除できる債務や葬式費用の範囲は下記の2つです(相続税法13条)。

(a)被相続人の債務で相続開始時において存在するもの(公租公課を含む。)
(b)被相続人の葬儀に係る費用

今回は(a)の相続債務について触れます。

ご参考:Q016 ローンなどの金銭債務は遺産分割協議で分けられる?

 

2.未納の税金(公租公課)

被相続人の死亡の時点で納めなければならないことが確定している税(公租公課)は、相続財産から控除されます。
さらに、被相続人の死亡後に相続人が納付したり徴収されたりすることとなった被相続人の公租公課も、控除対象になります(相続税法14条2項、相続税法施行令3条)。

そのため、今回のご質問のように、被相続人の死亡した年の所得について行う準確定申告によって納付する所得税は、相続税の債務控除の対象になります。

また、住民税や固定資産税・自動車税等は、1月1日時点(賦課期日という)での住民登録がある方や所有者を対象として課せられますので、納税義務者がその後に死亡して相続が発生した場合、その年の住民税等は、未納の公租公課として相続税の債務控除の対象になりますのでご注意ください。

 

3.金額がはっきりしない被相続人の債務は?

相続開始時において存在する被相続人の債務は控除できますが、それは確実と認められるものに限ります(相続税法14条1項)。

ただし、債務が確実かどうかについては、必ずしも書面の証拠は必要ありません。
また、債務の金額が確定していない場合には、相続開始当時の現況によって確実と認められる範囲の金額についてだけ控除することができます(相続税基本通達14-1)

 

4.連帯債務について

連帯債務とは、たとえば、1,000万円の連帯債務をAとBの2名が負っていたとします。
この場合、債権者はAにもBにも1,000万円全額を請求することができ、AまたはBのどちらかが1,000万円支払えば債務は消滅します。
ここでAが1,000万円支払った場合、AはBに一定の金額を支払うよう求めることができ、これを『負担部分』と言います。負担部分は、AとBの間で取り決めが無ければ平等の割合になりますので、AはBに対し「1,000万円払っておいたから、君の負担部分である500万円をよこしなさい」と言えるわけです(『求償』と言います)。

もしも相続財産に連帯債務がある場合、まずはこの『負担部分』が債務控除の対象になります。
1,000万円の連帯債務をAとBの2名が負っていて、Aが死亡した場合には、相続人はAの負担部分500万円を相続財産から控除することができます。

しかし、Bに資力が無く支払い不能の状態で、Bに求償しても支払いを受ける見込みがなく、Aが事実上Bの負担部分をも負担しなければならないと認められる場合に限っては、Bの負担部分500万円についても控除することができます。

なお、連帯『債務』と言葉は似ていますが、連帯『保証』の場合は保証債務ですので、次の第2の1の取り扱いになります。

 

第2 相続財産から控除できない債務とは

1.保証債務

保証債務は、原則として控除できません。支払うことが確定していないからです。

ただし、主たる債務者が弁済不能であるために保証債務者が代わって債務を履行し、主たる債務者に求償しても返還を受ける見込みがない場合には、主たる債務者が弁済不能の部分の金額については控除することができます(同通達14-3)

ご参考:Q018 保証人の立場は相続されるのか(保証債務と相続)

 

2.消滅時効の完成した債務

相続開始時点(被相続人の死亡時点)で、すでに消滅時効の完成(時効期間経過)した債務は、控除できません(同通達14-4)。
消滅時効が「完成」した債務については、債務者が時効を「援用」することによって消滅させることができるためです(民法145条)。債務者が死亡していればその相続人が時効を 援用します。

 

3.非課税財産を取得するための借入金や未払い金について

被相続人が生前に墓碑を買い入れ、その代金が未払いであるような場合の未払い金債務や、被相続人が生前に墓地や仏壇・仏具を購入するため、金銭を借りた場合の借入金債務については、相続税の債務控除の対象にはなりません(相続税法13条3項、相続税基本通達13-6)。
墓碑や墓地、仏壇・仏具が非課税財産(Q053)として課税されないのに、それを購入するための借入金等が債務として控除されるのでは、おかしくなってしまうからです。

 

4.相続財産に関する費用

被相続人の死亡から、遺産分割協議等によって財産を引き継ぐ人が決まるまでの間、相続財産を維持・管理するにはさまざまな費用がかかります。たとえば、不動産なら固定資産税や火災保険料がかかります。

相続財産の維持・管理に関する費用は、法律上は遺産の中から支出することになっています(民法885条。ご参考 Q034 遺産の管理や清算のためにかかった諸費用はどうするか)。

しかし、この費用は、相続開始時に存在していた債務ではなく、相続が開始した後に発生するものです。そのため、相続財産の維持・管理に関する費用は、相続税の控除対象にはなりません(相続税基本通達13-2)。
遺言の執行に関する費用(民法1021条)についても同様に考えられます。

 

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2014年2月18日 | カテゴリー :

Q065 相続財産から控除できる葬式費用とは

【Question】

私は、長男ということもあって、父の葬儀に際し喪主を務め、初七日忌・四十九日の法要も執り行いました。
これらに要した費用は、相続税の計算にあたっては相続財産から控除できますか。

 

【Answer】

基本的な考え方としては、お葬式に関する費用は控除できますが、法要に関する費用は控除できません。
また、香典返しの費用は控除できません。

 

【Reference】

葬式費用は、被相続人の債務ではありません(ご参考 Q036 葬儀費用は誰が負担するのか)。そのため、相続費用が遺産分割の対象となることはなく、遺留分を計算するときに債務として控除することもできません。

しかし、相続税の計算ではお目こぼしがあります。葬式費用は人が亡くなった場合には必ず発生する費用ですので、相続人が葬式費用を負担する場合には、債務控除と同様に相続財産から控除できるようになっています(注)。

(注)適用対象者が制限納税義務者の場合は、葬式費用の控除は認められない(相続税法13条2項)。

葬式の方法は地域の慣習や宗教によって大きな違いがあり、どこまで葬式費用と認められて相続財産から控除の対象になるかという線引きは難しいものがあります。そこで、以下のような取り扱いがなされています。

 

葬式費用となり控除できるもの

(1) 葬式もしくは葬送に際し、又はこれらの前において、埋葬、火葬、納骨又は遺がい・遺骨の回送その他に要した費用(仮葬式と本葬式との両方を行うケースでは、その両方の費用)

(2) 葬式に際し、施与した金品で、被相続人の職業、財産その他の事情に照らして相当程度と認められるものに要した費用

(3) (1)又は(2)に掲げるもののほか、葬式の前後に生じた出費で通常葬式に伴うものと認められるもの(御布施や戒名料などを指します)

(4) 死体の捜索又は死体若しくは遺骨の運搬に要した費用

※これらを控除するためには領収書があることが望ましいのですが、御布施にように領収書を発行してもらえないものについては、誰にいくら渡したのかを記したメモを残しておけば大丈夫です。

 

葬式費用とならず、控除できないもの

(1) 香典返戻費用

(2) 墓碑及び墓地の買入費並びに墓地の借入料

(3) 法会(初七日忌や四十九日など)に要する費用

(4) 医学上又は裁判上の特別の処置に要した費用

なお、香典については課税されません。
(ご参考 Q035 お香典は遺産に含まれるの?

 

相続放棄者や相続欠格者が葬儀費用を負担した場合

債務控除の適用を受けることができるのは『相続人』と『包括受遺者』に限られています。 なぜなら、これらの人は相続分または包括遺贈の割合で被相続人の債務を負担することになるからです。

家庭裁判所で相続放棄の申述をした人や相続欠格者などは、はじめから相続人ではなかったという扱いになるので、被相続人の債務を承継することはなく、債務控除もありえません。

しかし、このような人たちも葬式費用を負担する可能性はあります。葬式費用は被相続人の債務ではないからです。

そこで、家庭裁判所で相続放棄の申述をした人等が葬儀費用を負担した場合には、その人が遺贈によって取得した財産があれば、その財産価額から債務控除することができます(相続税基本通達13-1)

 

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2014年2月20日 | カテゴリー :

Q124 相続税が2割加算される場合とは

【Question】

祖父が亡くなりましたが、本来ならば相続人となるはずであった父のほうが先に亡くなっているため、孫である私が父を代襲して相続人になりました。

孫は相続税が2割増しだと聞いたことがあるのですが、私のようなケースでも2割増しになってしまうのでしょうか。

 

【Answer】

孫や曾孫のことを直系卑属(ちょっけいひぞく)と言います。
被相続人の孫や曾孫、つまり直系卑属が代襲相続によって相続人となる場合には、2割加算の対象ではありません。

 

【Reference】

代襲相続人でない孫は、相続税が2割増し

相続や遺贈死因贈与を含む)によって被相続人の遺産を取得した人が、次のような人に該当しない場合には、その人の相続税額(各種税額控除前の税額)に2割増しした額が相続税額となります(相続税法18条)。

1)一親等の血族・・・子、父母

2)代襲して相続人となった被相続人の直系卑属・・・代襲相続人となった孫・曾孫

3)配偶者

 

通常、孫は相続人に当たりません。
しかし、本来は相続人であったはずの子のほうが被相続人よりも先に亡くなっている場合には、孫が相続人として登場します。つまり代襲相続人です。

孫が代襲相続人になるのは、親が先に亡くなってしまったという特殊事情によるわけですから、相続税額の割増しをしたら気の毒です。そこで、孫が親を代襲して相続人となる場合には、2割加算する必要はありません。

 

孫が相続税を2割加算されるケースとは

代襲相続以外にも、孫に相続税がかかりうるケースがあります。それは次のようなケースです。

a)孫が、被相続人から遺贈や死因贈与を受けた場合(Q047

b)孫が祖父母から生前贈与を受けていたが、その後3年以内に贈与者である祖父母が死亡した場合(Q058

c)孫が祖父母から相続時精算課税制度による生前贈与を受けていた場合(2015年1月1日以降は孫への贈与に適用拡大)

d)孫が被相続人の養子になっている場合(孫養子

 

このようなケースは、先に述べた代襲相続のケースと違って「やむを得ず相続税を納める立場になった」わけではありません。そのため、残念ながらお目こぼしは無く、相続税額を2割加算して納付しなければなりません。

なお、d)の孫養子は、縁組によって法律上は「一親等の血族」に当たるので2割加算にならないと誤解しがちです。
しかし、相続税法18条2項という条文で、「一親等の血族」には、被相続人の直系卑属である者であって、その被相続人の養子となっている者は含まない、とされています。相続税の基礎控除を増やすために孫を養子にするケースがある(Q046)ので、このような場合には2割加算を免除しない、とされているのです。

 

きょうだい、おい・めいは、2割加算される

被相続人に子がおらず、直系尊属もいない場合には、被相続人の兄弟姉妹が第三順位の相続人として、被相続人の配偶者とともに相続人になります(Q003)。兄弟姉妹が被相続人よりも先に死亡している場合には、その子(被相続人から見て、おい・めい)が相続人の地位を代襲します。

この場合には、兄弟姉妹・おい・めいの相続税は、必ず2割加算になります。

 

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2014年9月12日 | カテゴリー :

Q136 相続税の申告が必要かどうかを確認する方法は?

【Question】

父の遺産について、相続手続きを進めています。
遺産の内容は、父が住んでいた自宅と預貯金が主で、ほかに生命保険金を受け取っています。

相続税は相続発生から10ヶ月以内に申告しなければならない、ということは承知しています。
でも、「遺産の額が相続税の基礎控除額に達していなければ、そもそも相続税の申告は必要ない」ことも知っています。

そこで、相続税の申告が必要かどうかを自分で確認したいのですが、何か良い方法はないでしょうか。

 

【Answer】

まずは税務署や税理士事務所に相談してみると良いと思いますが、国税庁のホームページに『相続税の申告要否判定コーナー』というページが開設されましたので、これを利用してみる方法もあります。

 

 

【Reference】

2015年から、相続税の基礎控除額が引き下げられました(詳しくはQ046)。
そのため、今までであれば相続税がかからなかったけれども今後は相続税の課税対象となるという方が、特に大都市部を中心に増加すると見込まれています。

相続税の申告が必要になるくらい遺産が多いと、相続発生から10ヶ月以内に相続税の申告をしなければなりません。もしも期限内に申告・納付をしないと延滞税がかかるだけではなく、配偶者控除や小規模宅地の特例のように納税者に有利な控除・特例が利用できなくなるおそれがあります。

そこで、相続税の申告漏れがないように、国税庁・税務署は積極的に注意をうながしています。その一環として、国税庁ホームページの中に「相続税の申告要否判定コーナー」が開設されました(2015年5月11日現在、なぜか直接リンクを貼れないので、入り口のページはこちらです。入り口が変わったらごめんなさい)。

相続税申告で遺産総額をはじき出す際、土地の路線価を計算するところがなかなか厄介ですが、このコーナーでは単純なものであれば土地の路線価も計算してくれます。また、死亡保険金・死亡退職金の控除も自動計算です。

 

利用上の注意

このコーナーですが、相続税の税額は計算してくれません
相続税の税額は、遺産総額がわかれば自動的に税額が決まる、というものではないからです。遺産の分け方や各種控除・特例の組み合わせによって税額が大きく変わるので、遺産総額だけでは税額まで計算することができないのです。

「税額がわからないのでは意味がない」と感じる方も多いかもしれません。しかし、申告期限を過ぎてしまうと納税者側がかなり不利な取り扱いを受けるのは間違いありませんから、まず「相続税の申告が必要かどうか」をチェックするということが重要です。

また、当然のことながら、入力したものしか計算の対象になりませんから、入力を漏らしてしまえばそれまでです。「名義預金」「定期金に関する権利」なども故人の遺産には違いがありませんから、このコーナーの利用はあくまでも自己責任です。
不安があるならば、やはり専門家の助けを受けたほうが良いでしょう。

 

ちなみに当事務所でも『相続税課税判定ブック』という冊子を、前に作ってお客様に配布していたことがあります。
これは冊子なので計算機を使わなければなりませんが、コンセプトそのものは国税庁の『相続税の申告要否判定コーナー』と同じです。
当事務所の『相続税課税判定ブック』をプログラム化して、自動計算できるようにしようと考えていたのですが、どうやら国税庁に先を越されてしまいました。

 

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2015年5月11日 | カテゴリー :